TREMOLO [ANNEX]

ゆらゆらぎが運営する同人系個人サイト

狂戦士の誤算Ⅱ



「本当に反省してます。だからそんな邪険にしないでよ、ウェンティ君」
 改めて過去の過ちを謝れば、ふうっと大きなため息が聞こえた。
 自分がしでかした事が事だけに警戒は仕方ないかと苦笑を漏らすタルタリヤ。根気よく誠意を伝えて信じてもらうより他にないか。と。
 しかし、タルタリヤの予想とは異なり、ウェンティが見せるのは警戒ではなくもっと砕けた表情だった。
 肩を竦ませ「とりあえず信じてあげる」と困ったように笑う少年にタルタリヤが覚えるのは歓喜と呼ぶべき高揚で、「ありがとう!」とつい声を弾ませてしまった。
 それに驚いたのは声を発したタルタリヤだけではなく、ウェンティもまた目を丸くして青年の態度に目を瞬かせていた。だが直ぐに破顔し、楽し気に笑ってみせる少年。
「まるでお菓子を前にした子どもみたいな反応だね?」
「酷いな。これでもいい年の『お兄さん』なんだけど?」
「見た目はそうだね」
 くすくすと笑っているウェンティの見た目は、タルタリヤよりもずっと幼い。だが、その中身は齢三〇〇〇年もの歳月を生きる老体―――もとい、人外の魔神。彼からすれば『人』など見た目に違わず赤子同然だろう。
 笑い過ぎじゃないかと少し不機嫌な音を出せば、「お年頃の男子を笑うのはプライドを傷つけちゃったかな?」なんて、軽口を投げかけてくる。
「そうだね。ウェンティ君に笑われて俺のプライドは深く傷ついた。だから、お詫びにちょっと付き合ってくれないかな?」
「えぇ? 随分雑な誘い文句だね?」
 誘い方が唐突過ぎると辛口なウェンティの言葉に、思い出すのは少年の恋人。博識で物腰柔らかな彼は、確かにスマートにお茶に誘ってくれそうだ。
 その光景を想像するのは実に簡単で、頭に浮かんだその様に胸の奥がモヤモヤするように感じるタルタリヤ。
 だからつい、先程のような軽口ではなく、本気で拗ねた声を出してしまった。
「生憎、俺は鍾離先生みたいに慣れてないんでね」
「何怒ってるの? そんな事一言も言ってないでしょ?」
「明らかに比べておいて?」
「比べてないってば」
 笑い顔を苦笑いに変えるウェンティは警戒心無く歩み寄ってくる。
「君は本当、鍾離先生と張り合うことが好きみたいだね」
「別にそう言うわけじゃ―――」
「安心しなよ。戦い以外は、きっと君の方がずっと優位だから」
 ウェンティはぽんぽんっと肩を叩いてくる。それが幼子に言い聞かせる様な仕草だという事は弟妹に同じことをしてきたタルタリヤだから分かることだろう。
 子ども扱いかよ。と、内心ぼやきながらも、生きた年数を考えれば仕方ないことだろう。
 反論をぐっと堪え、でもちょっと意地悪をしたくなる。こういうところはまだまだ餓鬼だと自分でも分かっていながら。
「つまり、ウェンティ君には俺は鍾離先生よりずっといい男に映ってるってことでいいかな?」
「ボク? ボクがどう思うかなんて、君、興味ないでしょ?」
「そんなことないよ。むしろ、ウェンティ君が俺をどう評価してるかが今一番気になる」
 一歩足を踏み込めば、距離は限りなくゼロに近くなる。
 自分を見上げる少年の顔は驚いているような訝しんでいるようなもので、その隙だらけな姿に、この場に居ない少年の恋人の苦労が目に浮かんだ。



 | 


2024-01-18 公開



Page Top