TREMOLO [ANNEX]

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狂戦士の誤算Ⅱ



 今此処で自分が手を伸ばせば、少年はどんな反応を見せるだろう?
 ふと頭に浮かんだのは好奇心と呼ぶべき感情。だがタルタリヤは、自分が覚えた感情の根源が分からなかった。
 交わした契約――もとい約束から、鍾離を挑発する気は一切ない。それなのになぜ彼に手を伸ばそうなどと考えてしまうのか。
 そもそも、何のために手を伸ばそうとしているのだろうか?
 彼を傷つけるため?
 いや、違う。もっと、もっと穏やかな感情が底に在る。
「ボクが君をどう評価してるかなんて、自分が一番分かってるんじゃないの? って、何?」
「あ……、いや……、ごめん、なさい……」
 肩を竦ませ、凄んでも無駄だよ?
 そう苦笑いを見せるウェンティに、タルタリヤは考えるよりも先に手を伸ばしていた。
 紺青から毛先に向けて色が変わる三つ編みに触れれば、思っていたよりもずっとそれは柔らかい。
 まるで妹達のそれのようだと毛先を遊ぶタルタリヤは、行動を訝しむウェンティの声に我に返った。
 思い出すのは、妹達の声。
『レディの髪を許可なく触るなんて最低!』
 妹達に好意を寄せる男児が戯れに髪に触れた時に発せられたその言葉に、タルタリヤは反射的に手を離し、謝った。失礼なことをしてしまった。と。
 過剰反応に眉を顰めるのはウェンティだ。
 明るく朗らかにコミュニケーションをとることのできる青年が不意に見せる不安定さに焦燥を覚えるのは本能だろうか?
「別に髪ぐらい触ってくれてもいいけど……。でも、いきなりは止めて欲しいかな? びっくりするから」
 いきなり伸びてきた手に一瞬固まったと苦笑するウェンティは、攻撃されないと分かっていても身体は覚えているものだね。と踵を返した。
 彼の不意を突いて攻撃した過去を持つタルタリヤは、ウェンティの言葉に力なく笑い返した。
「だよねぇ。本当、ゴメンね?」
「別に良いよ。それに、言ったでしょ? とりあえず君を信じるって」
 流石に早々に失望させられるとは思っていないと言うウェンティは数歩進んだところで立ち止まり、タルタリヤを振り返った。
「この後、時間はある?」
「え?」
「そろそろ鍾離先生がお昼休憩をとる時間なんだ。折角だから君も一緒にどう?」
 振り返り笑う姿に、恋人のことを考えているだろうとすぐに分かった。
 子どもたちにも見せていないだろう笑い顔はとても幸せそうで、想い人のことを心から大切にしているのだろうと伝わってきた。
 タルタリヤは、ウェンティの笑顔が眩しいと目を細めた。
 そして同時に、胸にチリッと焼けつくような痛みを覚えた。
(今のは、なんだ……?)
 意識を痛みに向けるものの、いつもとなんら変わりない。気のせいかと思い直したタルタリヤは「喜んで」と笑いウェンティの後を追いかけた。



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2024-01-19 公開



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