TREMOLO [ANNEX]

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狂戦士の誤算Ⅱ



「鍾離先生、お待たせ」
「いや、俺も今来たところだ」
 おそらく待ち合わせ場所だろう町の一角で見つけた姿に、会話を適当に切り上げて駆け出すウェンティ。
 タルタリヤはそれに苦笑を漏らし、まだ見慣れない鍾離の表情にそれは更に濃くなった。誰にでも優しく笑いかける人だと思っていたが、恋人には優しいだけではなくそこはかとなく甘い顔をする人だったのか。と。
 嬉しそうに笑っているウェンティの姿に、もし彼が今動物に変わったとすればそれきっと犬に違いないと、突拍子もないことを考えるタルタリヤ。
 しかし、それは仕方ないことだ。鍾離と話すウェンティの姿に、在りもしない尻尾の存在が見える様な気がしたから。
(本当、嬉しそうに笑っちゃって)
 そんなにお互いのことが好きなのかねぇ。
 誰かを特別な意味で『好き』だと感じたことのないタルタリヤには、色恋とは難解過ぎた。
 自分もいつか誰かをあんな風に『好き』になることがあるのだろうか? と少し離れたところで二人を眺めていれば、おそらくウェンティが話題に出したのだろう。鍾離の視線が此方に向いた。
(うわっ、こわっ……)
 鍾離先生久しぶり! と手を振ろうとしたタルタリヤの動きを止めるのは、男の眼光。戦いに身を置いた昔に一瞬で還ってしまう程心地よい殺気に、タルタリヤの闘争心は擽られる。
 だが、鍾離が放つ威圧は直ぐに形を顰め、いつも通りの温和な笑顔がその表情には浮かんでいた。
「公子殿、璃月に来ていたのか」
「こんにちは、鍾離先生。久しぶり」
 先程の威圧が嘘のように朗らかな声を掛けてくる元神に、タルタリヤは絶対に彼に喧嘩を売らないでおこうと改めて自身に誓った。
 再びウェンティを傷つけようものなら、自分はその瞬間にこの世から塵となって消えてしまうだろう。
 そしておそらく鍾離は友人であれどその命を奪うことに一切の躊躇いは見せないだろう。まるで其処らの石ころを蹴とばすように心を痛めることなく、愛する者を傷つける『敵』を排除するに違いない。
 タルタリヤは、1度目はただ運が良かっただけだと懐古する。ウェンティが口添えをしてくれなければ既にそうなっていただろうから。
(考え無しに酷いことをしたのは俺だけど、ね)
 過ちをちゃんと反省しているからこそ、戦う意思はもう持つことは無い。
 今はただ、友人として二人と交流を持ちたいと思っているのだから。
「今日は何用で璃月に来たんだ?」
「北国銀行の支店長として璃月港に赴任することが決まってね。短くとも数年は此処に住むことになりそうだから、改めてよろしくね。鍾離先生、ウェンティ君」
「え!? 公子君、璃月港に住むの??」
 鍾離よりも先に反応を示すのはウェンティで、そう言う事は早く言ってよ! と先程の会話で言うタイミングはいくらでもあっただろうと拗ねている様子だった。
 まるで此方に興味を持っているかのような口ぶりに、ウェンティ君はもしかしなくとも天然の小悪魔系かな? と分析するタルタリヤ。
 ジッと観察するように少年を見ていれば、視界に入ってくるのは男の腕。鍾離のものだ。彼は自然な動きでウェンティとタルタリヤの間に身体を割り込ませ、己の恋人を他の男から隠してしまう。
 きっとタルタリヤでなければ、気付くことは無かっただろう。鍾離がまた、一瞬だけ怒気を纏っていたことを。



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2024-01-21 公開



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