TREMOLO [ANNEX]

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狂戦士の誤算Ⅱ



(昔なら嬉々として挑発しただろうなぁ)
 昔の―――ウェンティを盾に鍾離と一戦交える前の自分なら、岩神モラクスと戦えるチャンスだとこの状況に飛びついただろう。
 だが今はそんな気は微塵も起こらず、我ながら丸くなったものだと自身の変化に内心笑うタルタリヤ。
 人当たりの良い微笑を浮かべ話を振ってくる鍾離に当たり障りない相槌を返し、敵意は無いことを二人に示すタルタリヤ。
 ウェンティも話に交じるように話題を振ってくれるが、その殆どがタルタリヤが応えるよりも先に鍾離が反応していて、魔神の独占欲を目の当たりにする。
(本当、鍾離先生ってばウェンティ君大好き過ぎじゃないかな?)
 もう傷つけないと『約束』してるのだから、少しぐらい信頼してくれても良いのでは?
 と、そんなことを思うのだが、ウェンティに重傷を負わせた過去は変えることができない為、恋人としては警戒して当然だろうとも思う。
 これは時間をかけて信頼してもらうしかないだろう。
 手始めにとタルタリヤは鍾離に笑顔を見せ、二人の仲睦まじさを理解していると伝える言葉を口にした。
「ウェンティ君も鍾離先生も、本当にお互い大好きだよね」
「そ、そんなこと―――」
「番で伴侶なんだ。当然だろう?」
「はは。だよね」
 過剰に反応して顔を赤らめるウェンティの言葉を遮る鍾離は、見せつけるように恋人の肩を抱き寄せる。
 それにウェンティはますます顔を赤らめて抗う素振りを見せるのだが、「どうした?」と鍾離に尋ねられれば直ぐに大人しくなった。
 赤い顔をして俯くウェンティ。恥じらうその姿は実に愛らしく、恋人と寄り添う少年の姿にタルタリヤは目を細めた。
 恋人を見つめる鍾離の表情はこの上ない程優しく、そして甘い。
 仲睦まじい事は分かっていたが、こうやって目の前で見せつけられるとなんとも言えない気分になってしまう。
(仲が良いことは良いことだけど、でも、ちょっと無防備過ぎじゃないかな?)
 一目見ただけでウェンティが鍾離にとって誰よりも大切な存在であることは明らかだ。
 本来ならそれはとても良いことだろうが、長年戦いに身を置いたタルタリヤからすれば実に危うい行動だと思えた。
 大切な存在だと周囲に知らしめるという事は、己の弱点を晒している事と同義だからだ。
(現に俺に狙われた過去があるんだからもう少し慎重になった方が良いんじゃないかなぁ?)
 懸念を口にすれば『お前が言うな』と言われるだろうから言葉を噤むが、鍾離を標的とした誰かがウェンティを餌に使う事は今後もあり得るだろう。
 そんな心配をするタルタリヤだが、そもそもそんな物騒な事が起こること自体稀有だとは思わないようだ。
 何より、ウェンティはただの少年ではない。かつて風神バルバトスとしてモンドを統治した七神の一人だ。よほどのことがない限り大人しく『餌』になることは無いだろう。
 しかし過去に彼を負かしたタルタリヤの心配は尽きないようだ。
(仕方ない。俺がウェンティ君を守ってあげるかな)
 そんなことを思うタルタリヤだが、ウェンティを守ろうと至った理由が本当は『二人に信頼してもらうため』ではない事に気付くことは無かった。



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2024-01-27 公開



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