タルタリヤの意思表示に鍾離の表情は不快に歪む。
明らかに怒気を纏った男に青年は再び拳を繰り出した。
軸足を踏み込み、『指南』に従い振りかぶらずに繰り出す拳。それは鍾離の顔すれすれを通過し、風圧に僅かにその頬に裂傷が生じた。
受け止められるかと思っていたタルタリヤは内心驚きながらも追撃をかける。
繰り出した拳を引き戻すとクロスを繰り出し急所を狙う。
しかしその拳は上体を逸らした男に追いつくことは叶わず、前に移動した重心に一歩踏み込むとそれを軸に足を振り上げた。
高く上がった青年の脚は躊躇うことなく鍾離の側頭を狙っていた。
しかし、それは男の前腕に止められ股を裂く様に上に弾かれる。
強制的に足は空を蹴り、バランスを崩したタルタリヤは反射的に上体を限界まで逸らして視界の天地を逆さにする。
両手を大地に着き、長い脚で円を描くように後ろに回転すると、そのままの勢いで更に2回繰り返して間合いを確保した。
再び大地に立ったタルタリヤは構えながらも鍾離の姿を視界に探す。
しかし、先程まで彼がいた場所にその姿は無く、左右に視界を小さく振って鍾離を探した。
(見える範囲にいないってことは―――)
「上か!?」
上空からの攻撃に備え空を仰ぐタルタリヤ。だが、見えるのは青と白のみで。
「生憎空を飛ぶ羽は持ち合わせていない」
聞こえる声は、恐ろしく近い。そしてそれは背後から聞こえた。
(!? いつの間にっ)
想定外の事態に驚愕するも、本能が感じた危機に考えるよりも身体が動く。そしてそれは間合いを取るための回避行動ではなく、背後の『敵』を殲滅するための反撃行動だった。
振り返る動作に合わせて繰り出されるのは裏拳。それが決まるとは思っていなかったが、案の定、鍾離はその腕を掴み止めてきた。
しかし、今度は止めるだけでは済まなかった。
鍾離は関節に手刀を入れ強制的に腕を折り曲げてくる。
タルタリヤの上体は肘の動きに合わせて前に引き摺られ、その眼前に迫るのは鍾離の膝だった。
「ぐはっ」
このままでは急所に喰らう。
咄嗟に左に首を振ったおかげで直撃は避けられたが、右のこめかみに入った男の膝はまるで勢い付いた鉄球がぶつかったような衝撃を青年に与えた。
視界が揺れ、自分が立っているかどうかもわからなくなる。
膝を折りしゃがむタルタリヤ。しかし追撃はまだ止まらない。後頸部に落ちてきたのは鍾離の肘。
受けた一撃はタルタリヤに大地を舐めさせた。
「『人』と違い龍の番は唯一だ。それに手を出そうとするのならば相応の報復を受けることを覚悟してもらおう」
背中に圧し掛かる重み。定まらない視界のまま顔を挙げれば、自分を足蹴に威圧を放った魔神の姿がそこにあった。