TREMOLO [ANNEX]

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狂戦士の誤算Ⅱ

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「まったく……。本当、呆れて物も言えないよ。公子君はともかく、鍾離先生ともあろう『人』が戦いに熱中し過ぎるなんてね」
 自分がこの場にいなければどうなっていたか考えるだけで恐ろしい。
 そう身震いするウェンティは自身の恋人に向き直り、まだ納得していないだろう鍾離に釘を刺した。
「負けは負けだから今後友達相手に嫉妬しないでよね?」
「しかし―――」
「鍾離先生。璃月で結んだ『契約』は絶対なんでしょ?」
 『分かった』以外の言葉は聞かないと鍾離の声を遮るウェンティ。
 それにぐっと喉を鳴らして押し黙る魔神の姿に、戦いでは間違いなく最強の存在も恋人には頭が上がらないのかと笑えてきた。
(『愛してる』ねぇ……)
 単語の意味は知っていようとも、その感情を理解することは未だ難しい。
 タルタリヤはウェンティを見つめ、彼に抱くこの感情は間違いなくそれに育つモノだっただろうから残念だと自嘲した。
「そんな顔しないでよ。君が心配するようなことなんて何もないんだから。ね?」
 悔しいのか悲しいのか怒っているのか判断し辛い表情の鍾離は黙ったままウェンティを見つめている。
 それに溜め息を吐いた少年は苦笑いを浮かべて一歩恋人へと近づいた。そしてその頬に手を伸ばすと「公子君はただの友達なんだから、ね?」と、言い聞かせている。
 『眼中にない』とはまさにこの事だろう。
 どれほど彼を想っても、決して届くことはない。明確な言葉で伝えればあるいは? と一瞬考えたが、結果は同じだろう。
(ウェンティ君にとって俺は『友達』。それ以上になることもそれ以下になることもない。……うん。いいね。最高だ)
 警戒すべき脅威だったはずの自分が、なんて好待遇だろう。
 気持ちに区切りをつけるべく、それに満足しておくべきだと自分に言い聞かせるタルタリヤは目の前で甘い空気を醸し出す二人を呼んだ。
「戦いには負けたけど勝負には勝てたみたいだし、これからもよろしくね、ウェンティ君」
「はいはい。君はさっさと白朮先生の所に行って治療を受けてきなよ。ボクがしたのはあくまでも応急処置だからね」
「ああ。そうするよ。それじゃ……。ああそうだ。鍾離先生、あの件、よろしくね!」
 満面の笑みを浮かべてかける言葉は、惨めな敗者にしてくれた魔神へのせめてもの報復だ。
 恋人に向けていた表情から一変して不快を露わにする男にひらひらと手を振ると、タルタリヤはこれ以上はおなかいっぱいだから二人でどうぞとラブラブな恋人達を残してその場を後にした。
 きっと今頃何の話だと詰められているだろう。
 それにたじろぎながらも説明する鍾離の姿を想像しながら荒野を駆ける青年は、また明日、友人をランチに誘って事の顛末を聞いてやろうと笑っていた。



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2024-03-27 公開



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