次の日、約束していたわけではなかったがいつも通り昼時に広場に向かったタルタリヤ。
日当たりのよいベンチに腰掛け屯する子ども達にライアーを奏でて唄う吟遊詩人の姿に、零れるのは少し切ない笑みだった。
邪魔をしないようにと唄が終わるまで離れたベンチに腰を下ろすタルタリヤ。
聞こえてくる歌声は美しい音色で、無償でそれを振舞う風神様の気前の良さにはただただ感心した。
もしも自分がこのように唄うことができるのならば、絶対に商売にしていただろうに。と。
(あ、でも吟遊詩人だし、相手によって金はとってるのか?)
今彼の詩に聞き惚れているのは幼子ばかりだが、これが大人ならば話は別かもしれない。
まぁそれでも、自分なら歌声を安売りはしないだろうが。
心優しい風神様の唄声に耳を傾けながら空を仰ぐ青年は、穏やかな昼下がりにも随分慣れたなと息を吐いた。
上空を流れる雲の流れをぼんやりと眺めていれば、唄声は止まりライアーの音色もそれに遅れて聞こえなくなった。
タルタリヤが視線を向けるよりも先に聞こえる幼子たちの拍手。人気者だなと目をやれば、笑みを浮かべて子供たちに応えて手を振るウェンティの姿が。
少年は立ち上がると子供たちを残し、此方に歩いて来た。
「ごめんね、お待たせ」
「いやいや。良いモノを聞かせてもらったよ」
「おや。聞いていたのかい? それなら報酬を貰わないとね?」
隣に腰を下ろすウェンティの軽口に「今日のランチでどうかな?」と軽口を返すタルタリヤ。
返ってくるのは申し出を受ける言葉で、自分の気持ちを彼は知らないままだと安堵した。
(って、言うわけないか。言わせないための『戦い』だったんだから)
そもそも伝える気もなかった想い。勝手に事を荒立てたのは嫉妬深い魔神様だ。
聡明な最古の魔神も恋の病には狂ってしまうということかと思い出して笑えば、何やら不機嫌そうな声がした。
その声の主を見れば、やってくれたよねと冗談交じりに睨むウェンティと目が合った。
「ああ、ちゃんと教えたんだね、鍾離先生」
「最後の最後まで抵抗してたけど、何とか聞き出せたよ」
「それで、聞き出した感想は?」
「揃いも揃ってバカだって言ってあげるよ。くだらない『約束』のために命を懸けるなんて、本当大バカ者だよ」
心底呆れたとベンチに背を預けるウェンティに、タルタリヤは真似るように背を預けると酷い言われようだと肩を竦ませた。
自分はそもそも応じる気など微塵もなかった『戦い』。それを脅して強引に戦場に立たせたのは一体誰だと思っているのか。
そう軽口のように愚痴れば、ウェンティも強く言えないだろう。それはごめん。と恋人に代わり謝ってきた。
二人揃っていないのに互いの想いの深さを見せつけられた気がするのは気のせいだろうか?