きっとウェンティは、自分に危害が加えられないかを危惧するあまり恋人が不機嫌になっていると思っているに違いない。
だが真実はおそらく『自身の恋人にちょっかいをかける不届き者と一緒に過ごしているから』だろうと推測するタルタリヤ。
まったく酷い話だと思うのは、二人がとても想い合っていると理解しているからだ。
鍾離が考えているような――ウェンティにちょっかいをかけてかき乱してやろうなんて性悪な事は微塵も考えていない。勿論、ウェンティを傷付けようとも。
それなのにあらぬ誤解を掛けられるなんて、堪ったもんじゃないと内心肩を竦ませる思いだ。
(俺はただ、ウェンティ君とも『友達』になりたいだけなんだけどなぁ)
ここ璃月に知り合いがいないわけではない。だが、信頼できる友人は皆無だ。強いて挙げるなら鍾離ぐらいだろう。
だからというわけではないが、タルタリヤは自身が初めて戦い抜きで興味を持った存在と純粋に『友達』になりたいだけだと自分の想いを確認した。
「分かった。今度鍾離先生を掴まえて、きちんと俺の考えを伝えるよ。それで、金輪際ウェンティ君に危害を加えるつもりはないって信じてもらえるよう努力する」
「信頼は言葉ではなく態度で得るものだよ」
「うっ……、手厳しいなぁ……」
視線を寄こすウェンティの表情に笑みは無く、その雰囲気は神様然としていて気圧される。
思わずたじろぐタルタリヤが浮かべるのは苦笑い。
すると次の瞬間彼を纏う雰囲気が変わり、人外感は消え失せ愛嬌のある笑みが向けられた。
「当然でしょ? それに、鍾離先生は他の人よりも約束を大事にしているんだから、その辺を理解して言葉を口にしてよね?」
「それは、俺のためのアドバイス? それとも、先生のため、かな?」
「どっちもだよ。ボクは鍾離先生に人を傷付けて欲しくないし、君にも傷付いて欲しくない」
鍾離は勿論、タルタリヤのことも心配するウェンティ。
風神様の博愛は罪作りだと苦笑を漏らすタルタリヤは言葉を素直に受け取り「ありがとう」と心配に感謝を示した。
「御礼なんていいよ。ただボクの信頼を裏切らないでいてくれるのなら、それで」
「ああ、勿論。……それじゃ、今日は何を食べに行こうか?」
「そうだなぁ~、ん~……、今日も漁港の方へ行きたいんだけど、どうかな?」
「ああ、いいよ。ウェンティ君の食べたいものを食べに行こう」
快諾すれば、嬉しそうな笑顔が向けられる。
それじゃぁ! と嬉々として漁港へ足を進めるウェンティの隣を歩くタルタリヤは、健気なものだと少年の恋人に対する愛に感服してしまう。
以前、鍾離を食事に誘った時に知ったのだが、彼は海鮮料理があまり得意でないらしい。そのため、彼と食事をするとなるとどうしても魚料理からは遠ざかってしまった。
友人の自分ですらそうなのだ、恋人として共に生活しているウェンティがそうではないとは思えない。
彼の愛情深さを考えると、きっと恋人が気を病まないよう配慮していたに違いない。
何故なら、隣を歩くウェンティと食事をするようになっておよそひと月、彼に何を食べたいか聞くと決まって『魚料理』と返されていたから。
なんともいじらしい少年に、タルタリヤはつい彼の恋人を羨んでしまう。優しい神様にこんなにも思われているなんて鍾離先生は幸せ者だな。と。