ウェンティが鍾離の恋人であるという事実が璃月港で知らない者は居ない程有名な事だと知ったのは、赴任してすぐの頃だった。
当初、昼を一緒に食べに行こうと半ば強引にウェンティを連れ出した際は浮気だなんだと周囲からは散々揶揄われた。
中にはタルタリヤを本気で警戒している面々もいて、二人の仲をかき乱す存在は許さないと言わんばかりの眼光には驚いたものだ。
だが、こうやって連れ立って昼を食べることがひと月も続けば、見慣れた光景だと人々は迎え入れてくれる。
まぁ、まだ警戒している者がいるにはいるのだが、彼らにもいずれ理解されるだろうと楽観的なタルタリヤは璃月港の名物カップルの片割れをスマートにエスコートして見せた。
「おや、ウェンティちゃん。今日もまた鍾離先生を放って他所の男とデートかい?」
注文を聞きに来た恰幅の良い店の女将らしき女性の揶揄いの言葉は既に挨拶となっている。
ウェンティはそれに苦笑い浮かべながら「はいはい」と受け流し、今日の昼食を注文する。
「こんな良い男と毎日のようにデートするなんて、隅に置けないねぇ」
「でしょ? 羨ましいでしょ?」
そういうのはもういいってば! と早く注文を通してくれと訴えるウェンティ。
それに女将は肩を竦ませ「面白くないねぇ」と豪快に笑っている。
「なんだい。最初は『浮気なんてするわけない!』って大慌てしていたのに。すっかり慣れちまったじゃないか」
「そりゃ毎日のように言われてれば慣れもするよ」
「ああそうだ。毎日この美男子君とデートしてるから、みんな心配しているんだよ? 鍾離先生が愛想尽かされちまったのかぁーって!」
「だーかーら! そういうのじゃないってば! 彼は、友達!! 鍾離先生とは全然立場が違うの!!!」
何度同じことを言わせるんだと怒っているウェンティだが、女将は何処吹く風と気にも留めていない。
むしろ彼女はタルタリヤに向き直り、
「お兄さん、振られちまったね?」
なんて更に揶揄ってくる始末だ。
話を振られたタルタリヤは、此処はどうするべきかと一瞬考える。
だが、『のらないでよ!?』と訴えるような目で見られたら、とる行動は決まっていると言うものだ。
「何度アプローチしてもこれなんだ。だからお姉さん、傷心の俺に飛び切り美味しい料理を持ってきてくれないかな?」
「おやおや。良い男にお願いされちゃ、敵わないね。飛び切り美味しい料理で失恋を吹っ飛ばしてやろうじゃないか!」
「頼むよ、おねーさん」
料理長に腕によりをかけて作るよう言ってくるよとまた豪快に笑って席を離れる女将。
それをひらひらと手を振り見送るタルタリヤは、自身に突き刺さる恨めし気な視線に気づかぬ振りを貫き通した。
「今日はどんな料理が出てくるか楽しみだねぇ」
「君さ、毎回毎回あのやり取りして飽きないの?」
「全然。むしろ楽しいじゃないか。鍾離先生とウェンティ君が『仲良し』だって分かってるからこその揶揄いだろう?」
二人は『凡人』になっても民衆にも愛されているんだね。
そう言って鍾離共々褒めたつもりのタルタリヤだが、ウェンティから返ってくるのは顰め面だった。