TREMOLO [ANNEX]

ゆらゆらぎが運営する同人系個人サイト

狂戦士の誤算Ⅱ



「そんな顔しないでよ」
「あのね、君分かってる? 今の璃月港で君がなんて呼ばれてるか」
 可愛い顔が台無しだよ。
 その言葉を続けようとしたタルタリヤだったが、呆れたと言わんばかりのウェンティの言葉に興味は移った。
 自分が璃月港で何と呼ばれているか。そんな事、気にもしていなかった。
 タルタリヤは答えを急かすように身を乗り出してウェンティを急かした。
 その行動は分かっていてのものだろうか?
 青年の真意を判別できないウェンティは近くなった距離を適正なものに戻す為に身を引いて椅子にもたれかかった。
「『スネージナヤから来た間男』」
「! わぁ! 何の捻りもない直球さだね?」
 もっとこう、他者が興味をそそられる呼び名をつけてもらいたいものだよ。
 そう笑うタルタリヤにはついて行けない。
 ウェンティは半目になって青年を見つめると、呆れてものも言えないと肩を落とした。
 周囲は面白おかしく自分達の関係で言葉遊びをしているだけだと分かっている。分かっているが、それでも決して良い気分ではない。
 ウェンティが大切に想う相手は――愛しいと思う相手は鍾離以外に他にない。
 それなのに、人々の噂話では自分は鍾離以外の男――タルタリヤと『良い感じ』になっている。
 鍾離とタルタリヤの間で揺れる乙女心! と恋の話が大好きな女の子達が騒いでいた声を聞いてしまったウェンティは、何から突っ込めばいいのかと溜め息を吐いたものだ。
 そして何より噂話を気にする切欠となった最大の理由が、恋人の鍾離の態度だ。
 先程は軽口のようにタルタリヤに愚痴を零したが、その実ここ1、2週間本当に機嫌が悪いのだ。
 その理由は今璃月港で出回っている自分達の名を借りた創作話で、大抵のことには理解のある彼にしては珍しく不快感を露わにしていた。
 しかしそれもそのはず。ただの妄言だと分かっていても自分の恋人が他の男と親密な関係であると騒がれていれば苛立ちを覚えて当然だろう。
 恋人の機嫌が悪いとウェンティだって落ち着かない。その上、毎夜『自分のモノだ』と確かめるように抱かれていれば、鍾離に疑われているのでは? と不安にもなる。
 勿論、彼にその疑問をぶつけてみたが、返って来たのは『お前のことは信じている』という言葉で、疑っている故の行動ではないらしい事は確かなのだが……。
(それでもなんか、……なんか嫌なんだよなぁ……)
 鍾離に抱かれることが嫌なわけではない。むしろ何より幸せな時間だと思っているぐらいだ。
 だがここ数週間は彼が自分を求める理由が『愛しているから』ではない気がするから辛いのだ。
(まぁ、疑ってないって言葉に嘘はないんだろうけど……)
 ウェンティは猶も楽しそうに笑っているタルタリヤに視線を戻すと、「君って本当、嫌な性格してるよね?」と嫌味をぶつけた。
「えぇ? どうしてそう思うんだい?」
「鍾離先生を怒らせてもう一度戦いたいんだろうけど、やり方が汚すぎる。正々堂々挑んでも無駄だからって、こういう手法はどうかと思うよ」
「ん? 待って待って。何のこと? 話が見えないんだけど??」
 散々迷惑を被っているのだ。これぐらいの悪態は許してもらいたい。
 そんな気持ちで苦言を呈すウェンティだが、タルタリヤから返ってくるのは本当に何のことか分からないと言わんばかりの困惑だった。



 | 


2024-03-07 公開



Page Top