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狂戦士の誤算Ⅱ その後の話

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―――― 28日目


 『約束』の期日まで、後数日。
 鍾離が用意した薬のおかげで発情期特有の強烈な欲求は抑えられたが、それでも愛しい恋人に触れたい欲が無くなるわけではなかった。
 むしろ身体の熱を無理矢理抑え込んだせいで、触れていたい欲求は格段に酷くなった気がする。
 数時間鍾離と離れただけで感情は乱れ、苛立つ。
 だから薬を飲み始めた日からウェンティの行動範囲は専ら往生堂の近くに留まっていた。
「おや、ウェンティさんじゃない。今日も鍾離さんと逢い引きしに来たのかな?」
「やぁ、胡桃。今日も変わらず元気そうだね」
 気が付けば往生堂の入り口前のベンチに座っていた自分には失笑が漏れてしまうというものだ。
 ニヤニヤと笑い揶揄ってくる堂主胡桃に苦笑いを浮かべ、仕事の邪魔はしないことを告げる。
 これはここ数日のお決まりのやり取りだ。
「ウェンティさんが仕事の邪魔をするなんて思ってないよ? 鍾離さんが使い物にならないとは思っているけれども!」
「んん? それ、一緒じゃない?」
「一緒じゃないよ~? 何故だかは分からないけれど、この一週間の鍾離さんってばウェンティさんがいる時もいない時もずーっと仕事に身が入っていないからね?」
 腕を組み、珍しいこともあるモノだと目を閉じ考え込んでいる素振りを見せる胡桃。
(それって絶対、ボクが発情しちゃったからだよねぇ……)
 鍾離の事だ。離れていれば番が心配で堪らないし、傍にいれば触れ合いたいと思っているに違いない。
 だが、発情期とはそう言うモノだ。言わば繁殖するための本能なのだから、番の事しか考えられなくなることがむしろ当たり前なのだ。
 きっと今も自分のことを想い仕事に身が入っていないだろう恋人。
 ウェンティは甘い疼きを抑えるように手を握りしめた。
「まぁでも、鍾離さんの気持ちも分かるけれどもね」
「え?」
 聞こえた声に我に返り、胡桃へと視線を向ける。
 其処には悪戯に笑う少女の姿が。
(揶揄う気だな)
 まったく。おませな女の子だ。
 なんて、年長者の余裕でそれを受け止めるつもりで「どういうことかな?」と促すウェンティ。
 だが、彼は知っておくべきだ。自身が恋人に関する事柄では『おませな女の子』ですら手玉に取ってしまえるほどチョロいことを。
「ウェンティさんも楽しみにしているからこうして毎日往生堂に来ているんでしょ?」
「『楽しみ』?」
「ほら、二ヶ月間のラブラブ新婚? 旅行!」
「ぶっ」
 思わず吹き出してしまった。
 驚きのあまり咽るウェンティに、胡桃の笑顔は更に悪戯なものに変わった。



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2025-10-03 公開



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