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狂戦士の誤算Ⅱ その後の話

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―――― 1カ月


 永かった。本当に、永かった。
 たった一か月のはずが、生まれてから番に出会うまでの時間と等しいと感じるほど、永い時を過ごしていた気がする。
 鍾離がタルタリヤと『賭け』をした日から今日で一か月。『契約』が施行されたのは確か夕暮れ前だった。
 明日から二か月の長期休暇を申請している鍾離は、『契約』の終わる一時間前に仕事を終え帰路に着いた。
 従業員ではないが諸事情で鍾離の執務室に顔を出していたウェンティも当然彼に連れられ往生堂を後にする。
 数時間早く休暇に入る了承を得るため訪れた堂主の執務室では、部屋の主である胡桃から生温い視線をもらったが、仕方ない。
 お土産を楽しみにしていると見送ってくれた彼女のために発情期が落ち着けば何かしら用意しなければと考えを巡らせていたのは、まもなく成就する『願い』に意識を向けないための苦肉の策だ。
 普段の優雅な足取りも見る影無く足早に歩く鍾離。
 置いて行かれないようにその手を握り必死に歩くウェンティは、彼の興奮を感じ取り己の体躯が呼応しているような気がした。
 鍾離の発情期が始まるよりも先に、ウェンティは発情してしまった。
 以降、抑えるために鍾離が用意してくれた薬を一日三回欠かさず飲んでいたのだが、今日は朝からそれを絶っている。
 薬を煎じた鍾離曰く、呑むことを止めれば一日程で従来通り発情するとのことだったが、その言葉に間違いはなかったようだ。
(後どれぐらい我慢すればいいのかな……)
 往生堂を出るときには一時間を切っていたはず。
 だが、帰宅して直ぐに洞天に移動したとしても『期限』よりも早いはずだ。
 数分――数十分は誤差と考えてもいいのだろうか?
 疼く体躯を持て余しているウェンティの頭の中は、洞天に移動した後のことでいっぱいだった。
 本当に永い一か月だった。
 そして、発情期を迎えた後の一週間強はある種の生き地獄だった。
 初日のような狂おしいほどの渇望は薬で抑えられていたが、愛おしい番を求める心までは抑えられなかったから。
 触れてほしいと涙ながらに懇願した夜は一度や二度では済まなかった。
 その度に鍾離を苦しめていると理解しながらも、内に燻る情熱をどうにかして欲しくて――――。
(でも、それももう今日で終わりなんだ)
 待ち望んでいた瞬間を思い描けば、身体は一気に花開いてしまうというものだ。
「っ、もう少し、我慢しろっ」
「だってぇ……」
 苦しげな声での窘めに返せるのは猫なで声。
 繋いでいた手に力を籠めれば、「頼むっ」と悲痛な声で『我慢』を求められた
「なんでぇ……? もう、もう『終わり』のはずでしょ……?」
「まだ、あと数十分、残っているっ」
「そんなぁ……」
 てっきり鍾離もそのつもりだと思っていたのに、真面目過ぎる。
 もう我慢しなくていいと思っていただけに、ウェンティの落胆は激しかった。
 だが、言われてみれば繋いだ手は握り返されることはなく、鍾離から触れられることはなった。
 あと数十分。一時間は切っている。
 だが、既に『終わった』と思っていたウェンティには、そんな刹那すら永遠に等しい時間だった。



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2025-10-31 公開



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