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―――― 1日目
「おはよう、モラクス」
「ああ、おはよう……」
朝、靄が掛かったようにぼんやりする頭のまま鍾離が居間へと顔を出せば、朝食の準備を終えたばかりのウェンティが此方に気付き微笑んでくる。
表情は笑顔だが不自然に身体を強張らせている姿に、鍾離も思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「顔を洗ってくる」
「うん。そうした方が良いよ。凄く眠そうな顔してる」
「ああ……なかなか寝付けなくてな」
言いながらも欠伸を我慢できず大口を開ける鍾離。
それに珍しいと言いながらも理由を追及してこないのは、きっとウェンティも同じだからだろう。
鍾離は声を掛けようとした口を噤み、洗面台へと向かうべく居間を後にした。
昨日、鍾離は向こう一ヶ月―――タルタリヤと交わした約束の期日まで、ウェンティとの触れ合いを禁じられた。
自業自得とはいえ、想定していなかった事態は彼が思っていたよりもずっと厳しいものだった。
禁じられたのは口づけや営みだけではなく、接触そのもの。つまり、抱擁はもちろん、不用意に肩が触れ合うことすら契約に反する行為となる。
そうなれば必然的に二人の間にできるのは物理的な距離で、目の前に愛おしい存在が居るのに手を伸ばすことも許されない状況に随分苛立ったものだ。
そして悲劇に追い打ちをかけたのは、眠る時。
先に眠ると言ったウェンティが閨に入ったと思えば枕だけ持って直ぐに居間に戻ってきたことに驚けば、今日から約束の日まで客間で眠ると寝室を分けられてしまった。
引き留めようにも、寝惚けて抱き着かない自信が無いと言われれば、弱い。
鍾離もそれには大いに同意できるからだ。
判断力が低下した状態でウェンティの姿を目に入れてしまえば、契約など知った事かと触れてしまうに決まっている。
およそ一ヶ月の間、別々で眠ることを了承した鍾離だが、今朝の目覚めはすこぶる悪かった。
今までこんなことなど1度もなかったと思う程、頭が重く、ぼんやりとしてしまっている。
勿論この原因は体調不良といった類のものではなく、単純に安眠できなかったからだ。そう、隣にウェンティがいないから。
(バルバトスに愛想を尽かされたら、俺は本当に死ぬかもしれないな)
同じ屋根の下で眠っているのに、たった一ヶ月という限定的なものだと分かっているのに、この様だ。
鍾離は冗談でも想像したくないと脳裏をよぎった恐ろしい可能性をこれ以上考えないようにしようと思考を止めた。
「…………まだ1日か」
顔を洗い終えた鍾離の眼前には何処か疲れた表情の自分が鏡の中にいた。
1日でこれでは先が思いやられるぞとため息を吐くと、まだ始まったばかりの試練に既に満身創痍といった様子だ。
「できることなら、抱擁程度は許してもらいたいが…………」
先のことを考えてタルタリヤとの交渉を考えるも、相手に今借りを作るのは得策ではないと冷静な自分が案を却下してくれた。
普段とは違い頼りない足取りで居間へと戻れば、既に食卓に着いているウェンティから「すこしはスッキリした?」と苦笑いを貰ってしまった。