TREMOLO [ANNEX]

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狂戦士の誤算 その後の話



 青年との『戯れ』のせいでウェンティは命に別状はなくともそれなりの大怪我を負った。数日は安静を言い渡され、その間少年を心より心配していた鍾離はそれはそれは甲斐甲斐しく世話を焼いたものだ。
 自分でできると文句を言われることもしばしばあったが、怪我人だからと言って従わせていた鍾離。彼は気丈に振る舞っていたが、血溜まりの中で傷つき意識を失っている恋人の姿が暫く頭から離れなかった。
 失うことへの恐怖からか、鍾離からの接触は普段よりも格段に増えていた。安静にしている時は手を握られ、動けるようになっても顔を合わすたびに抱きしめられた。何処かへ行こうとすれば行先を訪ねられ、時間が合えば付いて来ようとする。
 ウェンティは、過保護な親を持つ子供になった気分だと思いながらもそれらすべてを甘んじて受け入れた。触れることで感じるぬくもりに安堵したように息を吐く姿に、彼が受けた『恐怖』がどれほどのものだったのかを知って心が痛んだからだ。
 だが、それが数週間続けば話は変わってくる。いや、鍾離の『心配』は今ももちろん嬉しいし、彼の『恐怖』が和らぐのならば多少の過保護さは全く問題ない。ただ一つ、『恋人』としての触れ合いが一切なかったことを除いて。
 優しく抱きしめられ、口づけだって交わしていた。でも、それ以上の雰囲気にはならなかった。身体を気遣われていたからという理由半分、もう半分はいつ訪問してくるか分からない『お邪魔虫』―――青年のせいでもあった。
 元々精霊であり肉体を持たなかったウェンティ。そのせいか肉欲は人より薄く、長年他者の熱が恋しいと思うことなど殆ど無かった。しかし今はそれを感じる。『鍾離が恋しい』と心だけでなく身体が求めてくる。それもこれも恋人に愛される喜びを、愛する喜びを教えられたせいだ。
「邪魔者が去ったおかげで漸くお前を抱ける」
 今一度口づけを落とす鍾離はそう言って笑うと身体を起こし、ウェンティを跨ぎベッドの上に膝立ちになると己の上着を脱ぎ棄てた。
 脱いだ衣服を片す時間も惜しいと言わんばかりにそれを放り投げ、再び覆いかぶさってくる男にウェンティは手を伸ばし、その首に腕を回す。先程よりもずっとずっと濃厚な口づけに、鎮火しかけていた欲が再び燃え上がる。
 深い口づけは呼吸を奪い、ウェンティの思考を蕩けさせた。
 口づけの合間に恋人の名を何度も呼び、もっと傍に来てというかのように引き寄せた。鍾離はそれに応えるようにウェンティの唇を貪り、器用に少年の上着をはだけさせ、その陶器のような白い肌に指を這わせる。
 腹を撫でるように優しく触れる指はそのまま掌に変わり、熱を確かめるように上へと滑る。やがて到達する胸元に、淡い桜色の突起を避けるように手を添え柔く揉みしだけば、口づけの合間に上擦った声が漏れた。
 ウェンティが求めるものは何か、鍾離は勿論理解してる。理解しているが、敢えてそれを与えない。彼の手はピンと尖った桜色を不自然なほど避けて少年の身体に触れるのだ。
 やがて我慢できなくなったウェンティが見せるのは、不機嫌な表情、ではなく、恥じらいながら足をくねらせる仕草だ。きっと今唇を離せば縋るような眼差しで強請る嬌声が聞けるだろう。普段の何処か人を喰った様な喋り方をする声とは違う熱の籠った音は、鍾離だけが聞ける歌声だ。
 その声を聞きたいと思う反面、この甘美な口づけを止めたくないとも思う。きっとそれはウェンティも同じだろう。首に巻きついた腕はぎゅうぎゅうと力強く鍾離を抱き寄せてくるのだが、体躯への明確な刺激が欲しいと腰が僅かに揺れている。
 恋人の愛らしい姿に己の血が沸騰しているような熱さを身体に感じる鍾離は、口づけていたい欲よりも可愛い恋人の強請る声が聞きたい欲が勝ったのか唇を解放してやった。
 口内の愛撫の名残をそのままに薄く開いた唇からは赤い舌が覗き、瞼を持ち上げ潤んだ瞳が男を見つめてくる。
「もらくす、もっとぉ……」
 紡がれる言葉は舌足らずで、猫撫で声のような甘えた音だった。
 鍾離が求めた通りの音色は酷く艶っぽく、男の欲を駆り立てる。久方ぶりの情事に下肢を制御するのは難しい。鍾離は痛みを覚える程の興奮に駆られながら早く恋人と繋がりたい欲を必死に堪えた。
「煽るな。お前を傷つけたくない」
「やぁ……、もらくす、ねぇ、さわって。さわってよぉ」
 男のプライドなのか、欲情を隠し平静を装う鍾離。だが、熱に浮かされた恋人のおねだりにそれは長くは続かなかった。



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2023-07-29 公開



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