TREMOLO [ANNEX]

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初めてを君に捧ぐ

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 勿論、幼子が発した言葉が単なる売り言葉に買い言葉的な悪態だろうことは分かっているのだが、それでもやはり恋人として相応しくないと言われるのは悲しいものだ。
 それでも何とか気持ちを立て直して、状況に戸惑っているだろう幼子に寄り添おうとするウェンティ。
 しかしそれを止めるのはおびただしい殺気だった。
 自分に向けられたものではないことは分かっていたが、怖気を感じるウェンティは弾かれたように恋人を振り返る。
 美しい翡翠に映るのは、まさに修羅と化した鍾離の姿。
 器は凡人のそれだったが邪神と呼んでも遜色ない禍々しさを纏う男に、ウェンティは慌ててしがみついた。
「モラクス! モラクス、ストップ!! ボクは平気だから!!」
「お前が平気でも俺がそうじゃない。こいつはお前を―――俺の番を貶める言葉を口にした。それがいかに罪深いことか分からせてやる」
 殺気にのせられる岩元素の量が増え、彼の怒りに呼応するように大地が目覚めたように地鳴り響いた。
 このままでは璃月港が壊滅的ダメージを負う大地震が発生しかねないと焦ったウェンティは、幼子の前であろうが知った事かと鍾離の頬を両手で鷲掴むと強引にその唇を奪ってやった。
 触れるだけの口づけなど、今の彼には意味がないことは承知。
 舌を滑り込ませ彼の舌に絡みつけて交わす口づけに、耳に届いていた地鳴りは小さくなり、やがて何事もなかったかのように平穏な日常が取り戻される。
 ただ一点、壁に背を預けたまま此方を凝視している幼子の顔はそれはそれは真っ赤に染まっていたが。
「…………落ち着いた?」
「ああ……、すまない……」
「んーん、よかった」
 琥珀を覗き込めば、いつも通り穏やかな輝きを放つ瞳が見れて安心する。
 ウェンティは安堵の笑みを浮かべ、今一度ちゅっと恋人の唇に口づけた。勿論今度は触れるだけの口づけだ。
「……命拾いしたな、餓鬼」
「ぐっ……」
 ウェンティに見せていた表情とは全く別の表情を見せる鍾離の眼光には先程のような殺意は見受けられない。しかしそれでも怒気は残っているのは、まぁ仕方がないことだろう。
 恋人の想いの深さに口元はむずむずしてしまう。だが、喜んでばかりもいられない。
 幼子はきっと驚愕し、委縮しているだろうから。
「モラクス」
「分かっている。これ以上は何もしない」
 ウェンティからの呼びかけに纏っていた怒気も手放す鍾離は、困ったような笑みを浮かべ、恋人の懐の広さが心配になる。
 頬を擽り最後の機嫌取りとばかりに口づけを求めれば、望んだものが与えられ、満足できた。
「おい、餓鬼」
「なんでそんな風に呼ぶのかな? それじゃ信頼関係なんて築けないよ?」
「なら何と呼べと言うんだ? 同じ名なんだぞ」
「それはそうだけど。でも君には凡人の名前があるでしょ?」
「凡人としての名があろうとも魔神としての名が無くなるわけじゃない。それになにより、お前が呼ぶだろう?」
 今は『鍾離』と呼ばれることが多く、『モラクス』と呼ぶ者は数えるほどしかいない。
 だがその中に他でもなくウェンティが含まれているのだから、どちらの名も自分にとっては大切なものだと鍾離は言い切った。
 



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2024-06-11 公開



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