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名前というものは大切なモノだ。それは己が個であると認識するために必要不可欠だからだ。
そしてそれは己が個であると認識できるのであれば、変わっても何ら問題はない。むしろ二つ以上の名を持つことの方が本来は異例とも言えた。
そんな中、凡人ではないウェンティと鍾離には様々な呼び名があるのだが、その中でも二人が互いの名として認識している二つの名は、表向きに呼ぶ名と二人きりの時に呼ぶ名に今はなっている。
その内二人きりの時に呼ぶ名を今だけ―――幼子が元の世界に戻るまでの間だけ、過去の己に渡してやっても良いのでは? と提案するウェンティに鍾離が見せるのは顰め面で、言葉無く『嫌だ』と拒絶を伝えてきた。
「ちょっと大人気ないんじゃない?」
「なんとでも言え。そもそもお前のせいだろうが」
「えぇ? ボクのせいってなんで?」
恨めし気に視線を寄こしてくる恋人に目を瞬かせるウェンティは、責任転嫁も甚だしいのでは? と驚いた顔をしている。鍾離の対応があまりにも子供じみた八つ当たりだと思ったからだ。
しかしそんな自分に鍾離は「無意識か」と顰め面を苦笑に変化させ、ウェンティはますます意味が分からなくなってしまう。
「俺の真名を呼ぶ時のお前の音がどんなものか、自覚していないようだな」
「! な、にそれ? ボク、そんな変な声で呼んでるの?」
「『変』ではなく、『愛』が籠った音だな」
「!?」
「その音は俺に向けられるべきものだ。それなのにお前は僅かとは言え、あの音であの餓鬼を呼ぶ気なんだろう?」
そんなこと、許せるわけがないだろう?
そう言って力なく笑う鍾離は「だからアレは餓鬼で十分だ」と幼子に視線を戻した。
「ふっざけるなっ!! 俺は! 俺は――、俺は岩の魔神モラクスだっ!!」
「それはお前の世界での話だ。この世界でのそれは俺であり、お前ではない」
「っ―――」
「ちょ、ちょっと! だからもう!! やめなってば!!」
何故こうも直ぐ一触即発な雰囲気になるのか。
子供相手に本当に大人気ないと鍾離を睨むウェンティは、いまだ幼子を威圧する恋人に盛大な溜め息を吐くと彼の前に立ちはだかり、「鍾離!」と人差し指を彼に向けた。
「君の方がずっとずっとずーっと大人なんだよ!? 子供相手にヤキモチ妬いてないで、もっとこう、ドーンと構えていてよ!」
「……何故その名を今呼ぶ」
「そんなの、言わなくても分かってるでしょ!」
押し殺したような声を漏らす鍾離だが、その表情からウェンティの叱咤に嫉妬に占拠されていた頭が少し冷えたのだろうことは分かった。
何とも言えない顔で自分を見下ろす恋人。
ウェンティは何処か頼りないその眼差しに睨みを聞かせていた表情をふわりと和らげ、大丈夫だよとその頬に手を添えた。
「正直ボクが普段君の名前をどんな声で呼んでるのか自覚してなかったけど、でも、同じ名前でも同じ音でこの子を呼ぶわけないでしょ?」
確かに二人とも魔神モラクスであることに違いはない。でも、愛しているのは今目の前にいる彼だけ。
ウェンティの中にある想いが大きく違うのだから同じ名を呼ぼうともその音が同じになるわけがないのだ。
揺らがない想いを伝えるウェンティに、鍾離は眉間に深く皺を刻みながらも「分かった」と自分を『鍾離』と呼び、幼子を『モラクス』と呼ぶことを許容した。