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「こら! 未来が知りたい気持ちは分かるけど、歴史書を読むのはダメだって言ったでしょ?」
お昼ご飯の準備を終えたウェンティがエプロンを外しながらリビングへと戻ってくれば、此方に背を向けて何やらこそこそしているモラクスの姿が目に入った。
その姿に呆れながら気配を殺して近付くと、幼子が夢中で読み耽っていた本を取り上げた。
驚き本を追いかけるように手を伸ばすモラクス。ウェンティは本を持った手を天井へと伸ばし、交わした『約束』を守るよう幼子を叱った。
まだウェンティの胸元にも届かない背丈のおかげで本を奪い返されることはない。
しかし、それでも何とか取り返そうと自分の周りをぴょんぴょん飛び跳ねている幼子の姿には悶絶しそうになってしまった。
(可愛い可愛い可愛い! モラクスにもこんなかわいい時期があったかもしれないとか!!)
あまりの愛らしさについ頬を緩ませるウェンティ。
すると自分が笑われている事に気付いたモラクスは数歩後退るとウェンティから距離をとってみせた。
何をする気かと首を傾げるウェンティ。
自分の方が優位だと分かっているからこその余裕は警戒心を削いでしまう。
油断したウェンティの意表を突いた突進。
驚きに身を引けば幼子は勢いをそのままに飛びついてきて、そのまま後ろに押し倒されてしまった。
ドスンと大きな音を立てて床に転がるウェンティの腕には、幼子が。
咄嗟に彼を抱きしめ衝撃を自分が全て被ったおかげでモラクスに怪我はなさそうだ。
それどころか、転んだ反動で床に落ちた本をとりに行こうとウェンティの腹を蹴る始末。
逃がすかと寝転がったままモラクスを羽交い絞めにして本の脱却を阻止していれば、「離せ!」ともがく幼子の鋭い爪に痛みを覚えた。
「ちょ、ちょっとモラクス! 暴れてもいいけど爪! 爪は仕舞って!! 痛いってば!!」
「うるさい!! 離せ!! くそっ!! 離せバルバトス!!」
「もー! ボクはウェンティだって言ってるでしょ!! いい加減覚えてよ!!」
「デカブツはそうは呼んでないだろうが! 何故俺だけ偽りの名で呼べと言われるんだ!?」
散々説明したのに一度も『ウェンティ』と呼ばないモラクスは離せと猶も抗っている。
離したら歴史書を読む気だろうと言えば、当たり前だと返してくる幼子は実に素直で分かりやすい。
ウェンティは『やんちゃ』な幼子に苦笑いを浮かべながら、昔は『暴君』だと己を形容していた恋人の言葉はあながち間違いではないようだと思った。
この幼子のいた世界とこの世界とは別物らしいが、『モラクス』としての本質は変わらないと彼は言っていたから。
暴れるモラクスを抱きしめながら、今でこそ穏やかで聡明な『鍾離先生』という凡人として生活しているが六〇〇〇年前はやんちゃで我侭な『糞餓鬼』だったのだろう恋人を想うウェンティは、なんだか得した気分だと幸せそうに笑った。
だがしかし、悠長ににやけている場合ではなかった。
「何をしている」
耳に届いたのは地を這うような低い声。
鍾離が昼食をとるため一旦家に戻って来たのだ。