TREMOLO [ANNEX]

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初めてを君に捧ぐ

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「あ、鍾離、おかえり」
「ああ。……それで、お前は俺の番の腕の中で何をしているんだ?」
 不味いと思いながらもいつも通り振舞うウェンティ。もしかすると仕方のない奴だと笑ってくれるかもしれないと淡い期待を抱いて。
 だが、やはり見逃してはもらえなかった。
 鍾離はウェンティへの返事もそこそこに、二人に歩み寄るとそのままウェンティに抱きしめられているモラクスの首根っこをひっつかむと己の眼前へ持ち上げ、先程同様怒気を纏った声で威圧する。お前には学習能力が欠如しているのか? と。
 モラクスから返ってくるのは押し殺したような唸り声。ここ数日度々鍾離に歯向かっては返り討ちに遭っているため、多少の学習はしているようだ。
 だがしかし、まず学習すべきは『鍾離に反抗しない』ということではなく、『鍾離の番にちょっかいを掛けない』ということなのだが、そこはまだ幼すぎて分かっていないのだろう。
「鍾離、鍾離。ボクが油断したんだ。モラクスを怒らないであげて」
「お前が油断したところでこいつが悪さをしなければそもそもこの事態にはなっていないのだろう?」
「それは、そうだけど……」
「ならば悪いのはお前ではなくこの餓鬼だ。……良いか? 許容するのは今回までだ。次はバルバトスが何を言おうとも元の世界に戻す術を見つかるまでお前を拘束する」
 それが嫌ならば態度を改めろ。
 そう凄む男の目は一切笑っていない。冷たい輝きを放つ琥珀に金色の眼差しを見開いたモラクスは唇を噛みしめながらも小さく頷いた。
「わ、るかった……」
「それ謝罪しているつもりか? 謝る相手も違えば言葉も不適切だ」
「うっ……、ご、めんなさい……、バル―――、ウェンティ……」
「目上を呼び捨てにしていいと思っているのか?」
「もー! ちゃんと謝ってくれたんだからもういいでしょ!」
 いい加減にしなよ! と幼子に凄んでいる恋人を嗜めるウェンティ。鍾離はその言葉に眉を顰めながらもモラクスを解放してやった。
 宙で手を離して粗雑に扱うこともできたが、それをすれば恋人に呆れられると分かっているのだろう。
 幼子を床に降ろし手を離すとウェンティへと向き直る鍾離は恋人の唇に口づけを落とした。
「これで文句はないだろう?」
「ん。ありがとう、鍾離」
 独占欲の塊と言っても過言ではない種族にとって、今の状況は堪えがたいものだろう。
 それでも我慢して自分の声を聞き入れてくれる恋人にウェンティが見せるのは満面の笑みだった。
 溺愛している恋人から愛らしい笑顔を向けられては、仏頂面も貫けない。
 鍾離はふわりと表情を柔らげ、ウェンティの頬を擽るように撫でてやる。聞こえるのは楽し気な笑い声で、たったそれだけのことでも心が温かくなる。
「……それで、こいつは―――」
「鍾離、『モラクス』だよ」
「っ、……モラクスは今度は何をしでかしたんだ?」
 幼子はいまだ鍾離が手を離したままの状態で縮こまっている。
 よほど先の威圧が恐ろしかったのだろうと哀れみながら、ウェンティは「ちょっとね」とモラクスの『悪戯』を濁すように苦笑いを浮かべた。
 



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2024-06-19 公開



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