TREMOLO [ANNEX]

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初めてを君に捧ぐ

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「はぁ……、大方、歴史書を盗み読もうとしていたんだろう?」
「! わぁ! 凄いね? やっぱり自分のことだから分かるの??」
「嫌な言い方をするな。だが……、そうだな。この頃の俺なら、やりかねんとだろうな」
 ピタリと行動を言い当てたことに純粋に驚いただけだがどうやら嫌味のように受け取られてしまったようだ。
 ウェンティはそういう意味じゃないと視線を向けるが、鍾離から返ってくるのは苦笑いで、何故か少し悲しくなった。
「鍾離―――」
「見るなと言うならっ! 見えるところに置いておくなっ!!」
 感じた悲しみの理由が分からず思わず恋人に手を伸ばすウェンティが、その言葉はモラクスの声にかき消されてしまった。
 視線を向ければ全身の毛を逆立て威嚇する子猫と見紛う幼子の姿が。
 その姿は一見するといつもと変わらないのだが、何故かふと不安げなものに感じてしまった。
 何故そんな風に感じたのかは分からない。しかし、いつもよりも彼を纏う風に恐れが混じっている気がした。
(モラクスが怖いの、とか? でも、今更だよね……?)
 ちらりと恋人へと視線を向ければ、彼も幼子の異変を感じ取っているようだ。
 眉を顰めながらも僅かにだが威圧を緩める鍾離は溜め息だけを残し踵を返した。
 何処へ行くのかと尋ねれば、食事の前に手を洗ってくると振り返ることなく答えだけが返ってきた。
 きっと恋人もこの幼子をどう扱えばいいのか分からずにいるのだろうと理解したウェンティは肩を竦ませ仕方ないなと苦笑を漏らした。
「モラクス」
「な、なんだっ!?」
「ごめんね。君の不安をボクも鍾離もちゃんと理解していなかったみたいだね」
 不用意に近付けば幼子の警戒を強めるだけだと経験上知っている。
 ウェンティはその場にしゃがみモラクスに視線を合わせると、幼子の心細さを想像できていないことを謝った。
 きっとこの言葉に誇り高き魔神は噛みついて来るだろうが、それが強がりだということは一目瞭然だ。
 案の定、モラクスは「不安なんてない!」と反論してきた。
「うん。ごめんね」
「ぐっ……」
 強がりだと指摘することはせず、反論を受け入れるウェンティ。
 きっとこれも自尊心を傷つけるだろうなと思っていたが、存外は口籠る。
 バツの悪そうな顔をしているところから、心からの謝罪を意地で突っぱねている事に罪悪感を覚えたのだろう。
(なんだかんだ言っても、やっぱり『子供』なんだなぁ)
 想像していたよりもずっと素直だと内心微笑ましく思うウェンティは、それが表情に出ないように咳払いで誤魔化した。



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2024-06-23 公開



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