TREMOLO [ANNEX]

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初めてを君に捧ぐ




 

 

 恋人の腕の中はとても安心する。だから、ウェンティはいつも朝まで目を覚ますことなくぐっすりと眠ることができていた。
 時折、朝が訪れる前に覚醒することがあるのだが、それは決まって自身の寝相のせいで鍾離の腕から離れている時だった。
 どれだけ鍾離のことが好きなんだと目覚める度に自分に呆れるものの、自身の定位置に戻ればすぐにすやすやと眠ることができるから、言い訳の仕様がない。
 鍾離は自分が腕の中に居なくとも眠り続けることができることに理不尽な不満を覚えつつも、結局は惚れた者負けだから仕方ないと諦めている。
 そして今日も運悪く彼の腕の中から抜け出してしまったようだ。
 不意に目が覚めてしまったウェンティは薄暗い室内に夜明けはまだだと知り、寝惚け眼を再び閉ざすと寝返りをうって恋人の腕の中に戻ろうと試みた。
 いつも通り、ぬくもりを見つけてしがみつくウェンティ。
 だが、しがみついたとほぼ同時に意識が完全に覚醒した。
 ぱちっと翡翠を見開くウェンティが目にしたのは、精悍な顔立ちの美丈夫ではなく、あどけなさの残る青年にしてはやや幼い男児の姿だった。
「っ――――?!」
 思わず叫びそうになったが、寸でのところで両手で口を覆い隠してそれは回避できた。
 飛び起きるようにベッドから転がり落ちてそのまま背後に壁を感じるまで後ずされば、見ず知らずの少年の奥には恋人の姿が確認できた。
 異変に気付かず眠りこけている鍾離の姿に、ウェンティの混乱は酷くなる。
 武神と呼ばれた鍾離がかなりの手練れだと言うことは説明するまでもないことだ。
 それ故、彼の危険を察する能力は他者よりもずっと優れていて、誰かがこの家に侵入しようものなら就寝していようが直ぐに気が付くはずだ。本来は。
 それなのに何故か眠りこけている恋人の姿に、彼の隣で眠る少年の得体の知れなさに恐怖すら覚えた。
(も、モラクス、起こさなくちゃっ)
 頭を巡る疑問は尽きないが、それでもこのまま呆けているわけにはいかない。
 相手が何者か分からない為、少年が目覚めることの無いよう細心の注意を払って大回りでベットを迂回すると、穏やかな寝息を立てて眠る恋人の肩を揺さぶった。
「モラクス、モラクス起きて」
 果たしてこんな囁くような声で恋人が目を覚ましてくれるだろうか?
 そんな不安を抱きながらも、これ以上の声量は出したくなかった。
 鍾離の警戒網を掻い潜って家に侵入しただけでなく、あまつさえベッドに潜り込んで自分達の間で眠りこけているこの少年の目的は一体何なのか。
 考えれば考えるほど訳が分からなくて恐ろしい。
(お願いだから早く起きてっ)
 もしも鍾離よりも先にこの少年が目覚めたら、何が起こるか分からない。
 最悪の状況を想定しておくべきだと訴える本能が見せるのは、傷つけられる恋人の姿。
 縁起でもないと首を振って想像を追い払うと、もう一度恋人を起こそうと試みるウェンティ。
 先程よりも強い力で身体を揺さぶれば、穏やかだった寝顔の眉間に皺が寄った。
「モラクス、早く起きてよっ」
 少年はまだ眠りこけている。それに安堵を覚えながらも恋人の覚醒を促すウェンティは、一刻も早くこの危機から鍾離を遠ざけたくて必死だった。



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2024-03-03 公開



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