TREMOLO [ANNEX]

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初めてを君に捧ぐ

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「えっと……、ブエルの話が本当なら、モラクスが今此処にいるのはボクのせい、です…………」
 尻すぼみになる声。視線を下げて縮こまっている姿からも言い辛いのだろうことは伝わった。
 しかし、先ほどナヒーダが告げた内容を言葉を変えただけの言葉では何も伝わらないというもの。
 現に幼子は待てど暮らせど続かない言葉に眉を顰め、続きを促してきたから。
「それはさっき聞いた」
 尤もな反応だと同意を覚えるナヒーダ。だが、表情には出さず静観する。何故なら自分は部外者だからだ。
 だよね……と困ったような苦笑いを浮かべるウェンティは、ちらりと鍾離に視線を送った。
 腕を組んで黙ったままの彼は、番からの視線の意味が分からず訝しそうだ。
(頑張って、ウェンティ。これが貴方の『望み』の代償よ)
 先手を打って助け舟は出さないと意思表示するナヒーダは、ティーカップに口を付けお茶を楽しむ。
 彼女の立ち位置を理解したのか、ウェンティは小さく息を吐き、意気込むように己の頬を叩いた。
 再び顔を上げた彼の表情には、先ほどのような迷いはなかった。
「まず、誤解がないように言っておくね。ボクは決して君を疑っているわけじゃないってこと、それだけは忘れないで」
「ああ、分かっている。安心しろ」
 恋人をまっすぐ見つめ、信頼を伝える。返されるのは同じ思いで、ウェンティは少しだけ表情を綻ばせた。
 だがすぐに表情を引き締め、今度は幼子へを見つめた。
「ボクと君が――、ううん。ボクと鍾離が出会ったのは、ボクがボクになっていから一〇〇〇年程経ってからなんだ」
「あ、ああ……。それは、前に聞いた」
「その時の鍾離は、すでに今のボク以上の年数を生きていた」
「そうだろうな」
 本当に今更なんだと言いたげだ。
 ここが未来であると知ってから直ぐに二人のおおよその年齢は聞いてるから説明されずとも分かっている。
 そんな考えが透けて見えるほどわかりやすい表所を見せるモラクスに、ウェンティは苦笑いを浮かべた。
「ボクが鍾離に一目惚れしたってことも、覚えてる?」
「……ああ」
 いっそう険しい表情を見せる幼子にウェンティの苦笑いは濃くなった。
 きっと彼は呆れられていると思っているのだろう。
 本当は自覚する前の恋心の芽を摘み取られたことへの苛立ちなのだが、当の本人も当人も気付いていないことだから鍾離もナヒーダも何も言わなかった。
「鍾離は、ボクが最初に好きになった相手なんだ。……あ、最初って言ったけど、鍾離以外を好きになるつもりはないから最初で最後だからね?」
「ああ。それも、聞いた……」
(嗚呼、なんて残酷なのかしら。気付いていないにしても、流石に彼が可哀想だわ)
 可哀想と言いながら笑いを堪えていると感じるのは気のせいだろうか?



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2025-07-14 公開



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