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鍾離の様子からして怒声が響いても何ら不思議ではない。
しかしそれでも感情をぶつけることはせず、怒りを押し殺して『理由』を尋ねている。
その姿に、ナヒーダは感心を覚えた。まさかあのモラクスが。と。
鍾離は本来、聡明で理性的だ。知恵の神で在る彼女と引けを取らぬほど高い知性を有する彼は、感情に任せて行動することは殆ど無かった。
しかし、事ウェンティに関しては例外だ。一度彼が絡むと普段の聡明さは嘘のように形を潜め、情熱的なまでに感情的になってしまうから。
ナヒーダをはじめ、旧知の友人達はウェンティが絡んだ鍾離を色惚け――とまでは行かずとも、それに近いモノだと認識していた。
だから、てっきり『隠し事』に怒りを露わにすると思っていたのだが、知恵の神の予想を裏切り鍾離は実に理性的だった。
(でも、それも時間の問題ね)
抑えているだけで、怒りを覚えていないわけではない。
ウェンティが『隠し事』をしたままでは、いずれ大地の怒りに触れるのは免れないだろう。
(困ったわ。私としては早く話してもらいたいのだけれど、彼的には鍾離先生が本気で怒らない限りは黙っていたいところでしょうし……)
それでも、ナヒーダからすれば折角の旅行中。大災害に見舞われるのだけは御免被りたいというものだ。
(黙っていようと思っていたけれど、仕方がないわね)
小さく息を吐き、ソーサーにティーカップを戻す。
「鍾離先生、ちょっといいかしら」
「後にしてくれ。見ての通り、今取り込み中だ」
「ええ。分かっているわ。分かっているから、『お願い』しているの」
静観していた自分が口を挟んだ理由を考えてくれるかしら?
威圧を放つ男に笑顔で応戦するナヒーダの心の声は、鍾離だけではなくウェンティにも聞こえたのだろう。
心配そうに真名を呼んでくる恋人に、鍾離は苛立ちを表すように頭をぐしゃぐしゃと乱暴に掻き毟った。
「っ、いいだろう」
「ありがとう。私、折角璃月に来たのだから、此処ではどんなお菓子が流行っているのか知りたいわ」
暗に璃月港を案内しろと言ってくるナヒーダに、鍾離はますます顔を顰めた。
しかし一度承諾した手前『否』とは言えない。契約の神は、いまだ健在なのだ。
鍾離の返事も待たず、ナヒーダは立ち上がると踵を返し歩き出す。
有無を言わさぬ少女に鍾離は盛大な溜め息を吐きつつも従うようにその後を追った。
「……行ってくる」
家を出る時、鍾離は必ずウェンティに告げる。
そしてそれは怒っている今も変わらなかった。
振り返ることは無かったが、それでも彼の想いは十分に伝わってくる。