TREMOLO [ANNEX]

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初めてを君に捧ぐ

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(これが『唯一』を見つけた安らぎか……)
 未来の自分に対し腑抜けた面をしていると感じたことは度々あったが、それら全て、ウェンティが隣にいた時だった。
 きっと今の自分もあの男のように緩んだ顔をしているのだろう。
 それを情けないとはもう思わなかった。むしろ、こうなって然るべきだと悦びすら感じた。
 しかし、そんなモラクスの悦びは長くは続かなかった。
 何故なら、此処は未来の世界。ウェンティは『鍾離』の番なのだから。
「君をこの世界に呼んでしまったのは、きっとボクの執着だと思う」
「何に対する『執着』だ?」
「……前にも話した通り、ボクはモラクスの――鍾離の半分しかまだ生きていない」
「ああ……」
 ウェンティは生まれて確か三〇〇〇年かそこらだと言っていた。
 そして鍾離は六〇〇〇年以上を生きる最古の魔神だと聞いている。
(やはりソレが原因か)
 予想通りだと頬が緩みそうになる。だが、目の前には神妙な顔をしたウェンティがいるから、にやけないよう堪えなければ。
(三〇〇〇年以上も差があれば当然と言えば当然なのだろうが、それを覆したいと願う程あいつが好きなんだな、ウェンティは)
 ウェンティは鍾離を愛している。それは揺るぎない事実だ。
 其処を否定する気はモラクスにもない。
 しかし、それでもウェンティは『何か』を望み、自分を―――過去を呼んだ。
 その『何か』を今説明しようとしているわけだが、おおよその予想は出来ていた。
「鍾離は、ボクの倍以上生きている。だからきっと鍾離はボクが経験したこと全部、もうとっくに誰かと経験済みなんだ」
 勿論それは当然のことだと理解している、出会う前のことを責めるつもりも全くないと言うウェンティ。
 だが、その笑顔は悲しげなものだった。
(やっぱりソレが『理由』か)
 分かっていたことだが、胸が痛む。
「でもボクは、……ボクは全部、鍾離が初めてだったんだ……」
 湯呑みを握りしめる手に力が籠ったと感じる。
 モラクスは目の前で肩を落とし俯いた『番』の名を呼ぶが、それ以上の言葉は出てこなかった。
「だからきっと、『狡い』って思っちゃったんだろうね。ボクの初めて全部貰ったくせに、モラクスの――鍾離の初めては何一つ貰えないなんて不公平だ!! って」
 そしてその想いが強すぎて、『奇跡』と呼ぶにはあまりにも自分勝手な事象を起こしてしまった。
 まだ全てを信じたわけではないけれど、知恵の神であるナヒーダが言った言葉に間違いはないのだろう。
 ウェンティは悲しげな表情で笑い、
「だから、ごめんね」
 巻き込んでしまってごめんなさいと謝って来た。



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2025-08-14 公開



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