TREMOLO [ANNEX]

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初めてを君に捧ぐ

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「君は鍾離の―――モラクスの過去で、彼と同じ存在だってことは分かっているよ」
「! だから―――」
「でも君は、『ボクの』モラクスじゃない」
 愁いを帯びた笑みを浮かべ、はっきりとした口調で告げられる。
 モラクスと同一でありながらも異なる存在だと言い切ったウェンティに、理不尽な怒りを覚えてしまう。
 これが嫉妬故のモノだということは分かっている。分かっているが、激情を止めることは出来なかった。
「なら何故俺を呼んだ!? お前が望んだから俺はこの世界に来たのだろうっ!? それなのに何故お前が『俺』を拒絶するんだ!!」
「ごめんね。君の怒りは尤もなものだ」
 ふわりと爽やかな林檎の果実のような匂いに包まれる。
 抱きしめられたと気付くよりも先に、ウェンティは愚図る幼子をあやすように背中を擦って来た。
「君を巻き込んでしまって本当にごめん。まさか理を曲げてしまうほどこの醜い心が大きなものだとはボクも思っていなかったんだ」
 一定のリズムで背を叩くウェンティ。
 子供扱いするなと強がるが、その腕を振りほどこうとはどうしても思えなかった。
「……俺のことが、嫌いなのか?」
「まさか。君のことを嫌うなんてそんなこと絶対にあり得ないよ?」
「なら、どうしてダメなんだ……?」
「言ったでしょ? 君は『ボクの』モラクスじゃないって」
「お前にとって『モラクス』はあいつだけということか?」
「うん。そうだよ。ボクが欲しかったのは『ボクの』モラクスの『初めて』で、君のじゃないんだ」
 でも気持ちは嬉しかったよと笑うウェンティは何処まで分かっているのだろうか?
 モラクスは胸を締め付ける痛みに口を閉ざした。
 これが『番』を失った喪失感なのかと唇を噛みしめ苦しみに耐えていれば、ウェンティが拒んだ『もう一つの理由』を教えてくれた。
 それはモラクスが見えていなかった『未来』の話だった。
「それにね、君の世界の『ボク』を悲しませたくないんだ」
「……俺の世界、の?」
「そう。君の世界の―――過去の世界のボクはまだ生まれるどころかその存在すら何処にもないだろうけれど、でも、君がこの世界の過去から来たのなら、いつか必ず『ボク』とも出会うでしょ?」
(嗚呼……、そうだ……。ウェンティはあいつの番だが、俺にも、俺の世界に戻れば、必ず『俺のウェンティ』に出会うことが出来るんだ……)
 此処は未来の世界。だから、自分の、自分だけの番に、いつか必ず――――。
 驚き見開かれていた黄金色がキラキラと輝いた。
 ウェンティはそれを目の当たりにしてクスリと笑った。
「君の世界の『ボク』が、羨ましいな」
「何故だ?」
「だって、ボクが欲しかったものを君の世界の『ボク』は全部貰えるかもしれないじゃないか」
 出来ることならボクもそうであって欲しかったと愚痴るウェンティに、我侭だとモラクスは苦笑した。
 ウェンティのことを先と変わらず綺麗だと思う。だが、『今からでも願えば応える』とはもう口にすることは出来なかった。



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2025-08-18 公開



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