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割れた湯呑とテーブルに残された湯呑。それらは『モラクス』が先ほどまで確かに此処に存在していた証だった。
ウェンティはごろんと床に寝そべり、天井を仰いで彼が居た数カ月を思い出していた。
あどけない寝顔の幼子をベッドで見つけた時の事は今思い出してもある意味衝撃的だ。
あの時はまさか鍾離と同一の存在であり、過去であり、自分の執着が呼び寄せてしまった被害者だとは思わなかった。
野良猫よろしくとばかりに警戒心剥き出しだった幼子。
それが次第に心を許し、気付けば仲良くなったと思っていたが、まさか『憧れ』だと言ってもらえるとは思わなかった。
(……モラクスは、ボクだけ)
別れ際のやり取りはまさに『いい男』そのものだった。
鍾離に勝るとも劣らないいい男に育つだろうと彼の成長へ想いを馳せるウェンティだが、そもそも彼は鍾離その人だったと一人笑った。
(あの子のおかげでボクはますます君のことが好きになったよ、モラクス)
龍族にとって生涯で唯一と決めた相手が番だということは知っていたが、その想いの深さがどれ程のものか、自分はまだまだ分かっていなかった。
『ウェンティ』のことを考え全てを忘れる選択をしてくれた『過去』の恋人は、言葉通り己の全てを捧げてくれていた。自分達が出会う、ずっと前から。
そんな深く大きな愛を知れば、『初めて』なんて取るに足らないことだ。鍾離は昔から自分だけを愛してくれていたのだから。
(今夜、モラクスにちゃんと話そう。変えられない過去を引き摺っているなんて情けないボクのことも、全部、全部伝えなくちゃ)
彼の愛に見合う想いを返したい。信頼に応えたい。
先程は知られることを恐れた『真実』も、鍾離ならば呆れながらも最後には笑って受けとめてくれると思うから。
(だから、ねぇモラクス。ボク達、お互いが『最後の相手』にしようね?)
これだけは譲れないから、諦めてね。
ぼんやりと天井を眺めたまま、ウェンティはこの場に居ない恋人へと想いを馳せた。
どれぐらいの時間、そうしていたのだろう。
玄関から聞こえるのはドアの開閉音。それは家人の帰宅を知らせるものだ。
自発的ではないにしろ友人に璃月港を案内していたはずだったが、玄関から感じる気配は一人分。
勿論それは友人のモノではなく、彼の―――鍾離のモノだ。
「……おかえり」
リビングの扉が開いたことを風の流れで知り、天井を仰いだまま出迎えるウェンティ。
程なくして天井ではなく恋人の顔が視界に現れた。
「戻ったか」
「うん」
顔を覗き込んでくる鍾離の表情は、何処か神妙なものだった。
あんなに煩わしいと思っていた相手でも居なくなるとやはり寂しいものなのかもしれない。
もしくは、律儀な彼のことだから別れの挨拶ができなかったことを悔やんでいる可能性もあるだろう。
いずれにせよ、鍾離も『モラクス』が居なくなったことに何かしら思うところがあるのだろう。