TREMOLO [ANNEX]

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初めてを君に捧ぐ



「『魔神モラクス』だろう?」
「! 貴様っ、何者だ!?」
 得体のしれない相手に正体を暴かれ、警戒が頂点に達したのだろう。
 幼い少年は鍾離の手を離すと後ずさる。だが、視線を二人に向けたまま後退した幼子は、ベッドの縁に到達したことに気付かずそのまま転げ落ちてしまった。
「あぁ! だ、大丈夫かい!?」
 危ないと声を掛ける前に消えた姿に思わず駆け寄ろうとするウェンティ。
 それを止めるのは鍾離の腕で、何故アレを気に掛けるのかとまた不機嫌になっていた。
 流石に子供がベッドから転げ落ちて放置しておくわけにはいかないと常識的な考えを口にするウェンティだが、鍾離は猶も手を離そうとしない。
 らしくない恋人に眉を顰めるウェンティは子供相手に嫉妬しないでよと腕を振りほどくと幼子の姿が消えた先へ駆け寄った。
 ベッドの縁に手を掛けウェンティが「大丈夫?」と覗き込んだその時、伸びてきたのは岩の文様が刻まれた漆黒の腕。
 咄嗟のことに目を見開き驚いていれば、それは迷うことなく首を目掛けて伸びてきていた。
 これは掴まったら不味いなと避けようとしたウェンティ。だが、彼が動くよりも先に身体ごと後ろに引っ張られた。
 予想しなかった動きにバランスが取れず、身体を後方に引く力に身を任せてベッドに尻もちをついてしまう。
 そして反動のまま後ろに倒れそうになった体躯はぼふっと何かに―――鍾離にぶつかり、支えられていた。
「油断するな。形は餓鬼とはいえ、相手は生粋の『魔神』だぞ」
「別に油断なんてしてないよ。君の『過保護』が無くてもちゃんと避けれたからね?」
「ならいいが」
 返ってきた言葉に頬を膨らませるウェンティは、少しは信用しろと鍾離を振り返る。
 だが、呆れているだろうと思っていた恋人の表情が険しければ、おいそれと軽口も言えなかった。
 鍾離が見据えているのは己の恋人ではなく、かつての自分。
 攻撃を外した幼子はベッドから遠ざかるように後ずさり、壁まで後退すると全身の毛を逆立てるかのように威嚇を見せていた。
「貴様らっ、何者だっ!? 何故俺の攻撃を予期できた!?」
「えっと……」
 威嚇の声からも感じ取れる幼子の恐怖。ウェンティはどう説明すればいいのかと博識な男を振り返った。
 恋人の視線に、鍾離が返すのは小さな溜め息。
 幼子を気にかけているその姿は気に入らないが、もとより優しい神だった恋人らしさに仕方ないと言ったところだろうか?
「『するな』と言ったところで無理だとは思うが、警戒するな。俺達はお前に危害を加える存在ではない」
「! 『人』が俺に害を成せるなどと奢るな! 凡人が!!」
「確かに今は『凡人』として暮らしているが、かつては『岩神』と―――いや、『魔神』と呼ばれていた」
「貴様が『魔神』、だと? 嘘を吐くなっ!!」
「嘘ではない。此処はお前が居た世界から遥か未来の世界だ」
「なっ――――!?」
 そんな説明の仕方では相手が混乱するだけだと呆れるウェンティ。そしてその予想通り、壁にへばりついている幼子の表情には恐怖に驚きが混ざったものに変化していた。



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2024-04-10 公開



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