TREMOLO [ANNEX]

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初めてを君に捧ぐ



「う――――」
「嘘だと喚く前に、外を見ろ。お前の知った風景が広がっているのならば、先の言葉を訂正してやる」
 反論の言葉を遮る高圧的な物言いは相手に更になる威圧を与える。
 此方を睨みつける幼子の眼光は更に鋭くなったが、同時に不安も大きくなったように思えてならない。
 ウェンティはこんな小さな子を苛めるのはどうかと思うと恋人に苦言を呈すが、彼はその言葉にも己の態度を改める様子はなかった。
 いや、むしろ悪化した気がする。彼を取り巻く空気に激情が加わったから。
(もぉ! だからなんで嫉妬するかなぁ)
 恋人が幼子を気に掛ける事が気に喰わないと纏う風で伝えてくる鍾離に、ウェンティはにやけていいのか呆れて良いのか迷ってしまう。
 むずむずする頬を誤魔化すように両手でむにむにと揉んでいれば、独占欲を纏っていた鍾離からその気配が無くなった。どうやら喜んでいる事が伝わってしまったようだ。
「何をしている。確認してみろ」
「っ、敵に背など向けられるかっ」
「自惚れるな。力の差が分からぬほど未熟でもあるまい」
 危害を加えるつもりなら背を向けられるまでもなくそうしている。
 両手を組んで呆れたと言わんばかりに溜め息を吐く鍾離に、幼子は言葉に詰まったように黙り込む。
 ただ悔しそうな眼差しで鍾離を睨んでいたが、このままでは埒が明かないということは分かったのだろう。警戒しながらも窓に近付く幼子は、此方を気にしつつもその先にある風景に目を向けた。
「な―――っ、なんだこれは!?」
 目に飛び込んできた景色に驚いた幼子の頭からは警戒の文字が抜け落ちてしまったようだ。身体全てを窓に向け―――いや、むしろ身を乗り出す勢いで眼前に広がる光景に釘付けになっている。
 ウェンティは隣に立つ恋人に小声で浮かんだ懸念を尋ねた。
「ねぇ、これって大丈夫なのかな?」
「問題ない。少なくともこの世界はアレのいた世界とは別物だ」
「どうしてそう言い切れるの?」
「この世界の過去から来た俺と同一の存在と言うことは、アレは俺の過去だ。つまり、俺もこの珍妙な事象に遭遇してる事になる」
 だが生憎そんな記憶は持ち合わせていないという鍾離の言葉に納得したのか、ウェンティはそれなら未来の世界を見せても平気かな? 楽観視する。
 いや、本来ならば違う世界であろうが未来など知らない方がいいと言うことは分かっているのだが、他ならぬ鍾離がそれを幼子に促したのだから大丈夫だと言うことにした。
 ウェンティは無言のまま自分達に背を向けている幼子に「モラクス」と声をかけた。
「「なんだ」」
 振り向いた幼子とは違う声が隣から聞こえる。ウェンティは隣に立つ恋人を肘で突っつき、分かってるくせに茶々入れないでよ! と普段の彼らしからぬ幼稚な振る舞いを窘めた。
「何故貴様が応じるんだ」
 恋人とじゃれ合っていれば、怪訝な声が耳に届く。
 その声に、ウェンティは漸く自分達の―――恋人の正体を明かしていないことに気が付いた。



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2024-05-24 公開



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