TREMOLO [ANNEX]

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見なかったことにしたい

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 仮眠と称した休息を存分に取った空達が秘境を出たのは、そこに入ってきっちり一日後のことだった。
 久しぶりの陽の光だとはしゃぐパイモンに、はしゃぎすぎだと笑うウェンティ。
 そんな悪友に陽の光は『人』にとってなくてはならないモノだと鍾離が諭せば、応戦よろしくとばかりに突っかかるウェンティの姿を見ることができた。
 昨日までならその姿に『喧嘩しない!』と注意ができただろう空は、なんとも言えない気持ちで黙ってその光景を眺めていた。
「旅人、どうかしたの?」
「え? なんで?」
 鍾離との言い合いに言い負けたウェンティはそっぽを向いて頬を膨らませて見せていたのだが、突き刺さる視線に小首を傾げて訪ねてきた。
 内心の動揺を押し殺して平静を装う旅人は質問に質問を返す。
 それを訝しんだウェンティだが、特に気にする様子もなく再び鍾離に視線を向けると、
「ボクは今から璃月港で美味しいお酒を呑むんだから邪魔しないでしょね!」
 と、姿を見かけるなり鉄拳制裁で追い出そうとしないでよと釘を刺していた。
 二人の本当の関係を知ってしまった後では、とんだ茶番だと思ってしまうのは仕方ない。
「お前が酔い潰れて璃月の民に迷惑を掛けなければな」
「ボクがいつ璃月で迷惑をかけたって言うのさ? 今回のことだって、君からすればただのお節介かもしれないけれど、何も知らない璃月の人達が危険な目に合わないようにっていうボクなりの気遣いだからね?」
「今回のことに関しては感謝している。だが、これまでの己の振る舞いを思い出せ。お前は酒を呑むといつも―――」
「はいはいはい。お説教はもういいって。昨日散々聞いてあげたでしょ?」
 もうお腹いっぱいだと耳を塞いで鍾離の小言をシャットアウトするウェンティだが、こっちがお腹いっぱいだと心の中で突っ込む空。
 昨日までの自分の心配を返せと思ってしまうのは、二人が言い合いながらも何処か楽しそうに見えるからだ。
 まったく先入観とは恐ろしい。
 二人がいがみ合っていると言うそもそも間違っている思い込みのせいで、こんな分かり易い二人の表情を見落としていたのだから。
(でも、ウェンティは俺にバレてるってまだ気づいてないんだろうな)
 気付いていれば、こうやって険悪な振りを続けることなどしないはずだ。
 空は半目の表情で鍾離へと視線を向ける。彼は全て知っている。知っているのに、この振る舞いだ。
 昨日まで彼に抱いていた印象は、一夜明けて180度変わってしまった。
 この鍾離と言う美丈夫は、恋人の―――ウェンティのためならば、周囲を欺くことなどなんとも思っていないのだろう。
 事実、自分に対して昨夜のやり取りが嘘のように今までと変わらない態度を見せているのだから。
(先生って本当、怖いや……)
 元々敵に回してはいけない人だと思っていたが、それが確信に変わった。
 そう。絶対に、何があっても敵に回してはならない。
 そう考えを改めた空は、早く璃月港に戻ってごはんが食べたい! と声を上げているパイモンを促し大地に沈み消えてった秘境を後にした。



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2024-02-09 公開



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