TREMOLO [ANNEX]

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見なかったことにしたい

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「吟遊野郎も璃月港に行くのか?」
「勿論。偉大なる鍾離先生の許可も貰えたし、気兼ねなく璃月の美味しいお酒を呑めるのならいかない理由がないでしょう?」
 鍾離への嫌味と捉えられる言い回しに、パイモンが青い顔をしてオロオロしている。
 空は何も知らない相棒を庇うように「楽しんでね」と二人の会話を打ち切るのだが、要らぬ親切心を口にするパイモンに頭が痛くなった。
「そうだ! 相棒、どうせオイラ達も璃月港でご飯を食べるんだし、吟遊野郎に付いて行かないか?」
「「え?」」
 パイモンの提案が想定外だったのは、空だけではなかった。ウェンティも同じく驚いた顔をしていたから。
 だが、此処で驚くのは彼が演じる『モラクスの悪友』としては間違っていたようで、直ぐに取り繕うように「わぁ! それは嬉しい申し出だね!」と笑顔を見せた。
 流石長年周囲を欺いて来ただけのことはある。演技派な彼に、空は心の中で喝采を送る。
「でも、折角の申し出だけど、君達二人の邪魔をするのも申し訳ないから今回は辞退させてもらおうかな」
 お酒が恋しくて恋しくて楽しくおしゃべりする余裕はなさそうだから。
 そんな尤もらしい理由を並べるウェンティだが、パイモンはともかく、空は(あ、嘘だ)と見破った。何故なら、一瞬だけウェンティの視線が鍾離の方へ向いたところを見てしまったから。
 おそらく二人はこの後落ち合う約束をしているのだろう。そしてそれは『悪友』としてではなく、本当の関係―――恋人として。
 昨日知ってしまった真実に、これまでの様々なやり取りが繋がってゆく感覚を覚えた空。
 きっと昨日ウェンティと再開したのは偶然ではなかったのだろう。おそらく彼は恋人に会いにモンドから遥々璃月港を訪れたに違いない。
 その道中で秘境を見つけてしまい、恋人が大切にしている民に被害が及ぶ前に自身が対処しようとした所に自分達が現れたと言ったところか。
 そしてまた、璃月港で鍾離と再開したのも、偶然ではない。
 彼は恋人を迎えに来たか、それとも待ち合わせに現れない恋人を探して自分達を見つけたのだろう。自分達に僅かに残るウェンティの――風の元素を辿って。
 だから昨日半ば強引に同行してきたのは、恋人の身を案じての事。
 其処迄の真実に辿り着いた空は、でも……と食い下がるパイモンをどうにか躱そうとしているウェンティを見ながら後ろに感じる視線に問いかけた。二人は物凄くラブラブなんだね……。と。
「酒のために友人からの申し出を受けないとは、吟遊詩人殿は随分薄情者のようだ」
「! はぁ?」
 背後からする声に真っ先に反応したのはウェンティその人だ。
 呆れたような挑発を含む言葉に眉を顰め不快感を露わにするウェンティは鍾離を睨みつけ、
「ボクは友達のために気を使ってるだけど?」
 と応戦する。
 だが本音は、二人きりで過ごすと約束していたのに何言ってるのこのじいさん。と言ったところだろうか。
 空はこの状況にもはや笑うしかない。



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2024-02-10 公開



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