「おっと。思っていたよりもなんだか深刻そうだね?」
揶揄い交じりの笑みから苦笑いに表情を変化させる胡桃は、話を聞くよと促してくる。
それにウェンティは顰め面を更に険しいものに変えるのだが勿論胡桃に対してのものではない。
胡桃もそれを理解しているのか、普段は飄々として掴み処のない風のようなウェンティがこうも感情を露わにしている事を心配してきた。
「私で良ければ、話聞くよ? 鍾離さん絡みの事みたいだし、どう?」
「……ありがとう、胡桃」
「いいよいいよー!」
ウェンティさんが落ち込んでいると鍾離さんが気にして仕事にならないからね!
そう言いかけた言葉をなんとか内に留めた胡桃は、歩きながら話そうかとウェンティを促した。
「それで、何があったの?」
「……胡桃はこれの意味、知ってる?」
腰を据えて話すよりも気が楽だろうからと足を留めず尋ねてくる胡桃。
その気遣いには感謝を覚えるのだが、如何せん、先程知った事実にどうにも気持ちを立て直すことができない。
ウェンティは胡桃の気遣いを無下にすると分かりながらも足を止め、自身がぐしゃぐしゃにして握っていたモノを差し出した。
それは昔から自身が愛用していた帽子で、璃月の隣国であり自身がかつて統治していた国モンドを彷彿とさせるデザインが特に気に入っていた。
しかし、今の彼の手にあるそれは本当にお気に入りなのかと聞きたくなる程ぞんざいな扱いをされている。
かろうじて帽子にあしらわれたセシリアの花飾りは無事だったが、それで酷い有様だ。
顰め面のまま差し出した帽子に、足を止めた胡桃が見せるのは「あぁ……」という苦笑い。
その反応から、どうやら彼女も知っていたようだと理解できた。
ウェンティは差し出した帽子を引っ込め、八つ当たりと知りつつも「なんでっ!」と声を荒げた。
「どうして教えてくれなかったのさ!」
「ちょっとちょっと、落ち着いてよウェンティさん」
往来でこんな風に言い合いをしていては在らぬ噂がたってしまう。
いや、他人の噂話なんて本来気にならないのだが、自分と噂になる相手がウェンティだから胡桃も慌てるのだ。
(絶対あり得ないって分かってても恨みがましい目で見てくるからね、鍾離さんは……)
普段は落ち着きのある賢人なのだが、ひとたび恋人が絡むと『お前は誰だ』と言いたくなるぐらい人が変わる美丈夫の姿が頭を過る。
胡桃は人目を気にしてウェンティを宥めようと試みるのだが、当人はそれどころではないからどうしたものか。
知っていたなら教えてよ!! そう怒っているウェンティの姿に、通行人がちらちら此方を盗み見ている。
勘弁してよ……と失笑を覚える胡桃。
ただでさえウェンティは此処璃月港ではある理由から有名人なのだ。その噂に拍車をかけることになりかねない事態に、軽々しく首を突っ込むべきではなかったと自分のお節介さを反省する胡桃だった。