「……君が、選んでくれるの?」
「お前がそれを許してくれるなら」
先程までの怒りをすっかり鎮火させたウェンティが奏でるのは甘えたような声。それに鍾離は笑みを深くし、恋人の頬に手を添えた。
男が服を意中の相手に贈る時に込められた欲は知っているか?
きっとこれは璃月だけではないはずだと尋ねてくる鍾離に、ウェンティは拗ねたような表情を見せながらも「知ってるよ」と頷いた。
「知ってるから、聞いてるんでしょ」
鈍感! と詰って来る恋人はどうしてこうも愛らしいのだろうか。
鍾離は己の頬がだらしなく緩みそうになっている事に気が付き、咳払いでそれを誤魔化した。
「なら、心置きなく選ばせてもらおう」
「ん。君のセンスがどれほどのものか、楽しみにしてるね」
「なんだ。一緒に行かないのか?」
どんな服を贈られるか楽しみにしたいと言うのであればやぶさかではない。
だが、てっきり二人で共に買い物に繰り出すつもりだった鍾離は少々残念そうな声を上げた。
「それってつまり、ボクとデートしたいってこと?」
「そうだが?」
「もう! 君って本当言葉が足りないね!」
そんなしょんぼりとした顔をしないでよ。
そう言って笑うウェンティの表情はいつもと変わらず朗らかで安心する。
恋人が嬉しいと自分も嬉しいと笑う鍾離は、ならばと呆然と事の成り行きを見守っていた胡桃を振り返った。
「堂主」
「……! は、はいはい!! 何かなぁ!? 鍾離さん!」
「すまないが、この後暇を貰ってもいいだろうか? 急ぎの用が出来てしまった」
恋人とデートすることが『急ぎの用』とかふざけているのかこの客卿は。
そんなことをつい思ってしまう胡桃だが、申し出に否と言えるほどの度胸は無かった。
思い出すのは先程感じた威圧感。できることなら、もう二度とあんな恐ろしい思いはしたくない。
となれば、平和的に状況を納める方法はただ一つ。
「どうぞどうぞ。ウェンティさんにとびきり似合う服を選んであげてねぇ」
「……お前に似合わない服があるのか?」
「そりゃあるに決まってるでしょ? ……胡桃、ごめんね。ありがとう」
目の前で見せつけられる甘すぎる恋人同士のやり取りに、おなかはいっぱいだ。
気が付けば集まっていた群衆達も「ご馳走様」、「まぁ、あの二人ならこうなるよな」と口々に零しながら散り散りに去っていた。
逃げ遅れた! と肩を落とす胡桃は、自分を気に掛けてくるウェンティが笑顔に戻ったのだから良しとしようと自身に言い聞かせた。
「それじゃ、私はこの後お休みする客卿の分も働かなくちゃだからそろそろ行くね!」
「うん。またね、胡桃」
また目の前でいちゃつき出しそうな雰囲気を察知したのだろう。
胡桃は二人の返事を待たずに脱兎のごとくその場から退散したのだった。