あなたは18歳以上ですか?
18歳未満の方の閲覧を固くお断りいたします。
美しく咲き誇る櫻の大樹。それは遠目から見ても圧巻だったが、間近で見ると息を呑むほど幻想的だった。
「言葉にならないほど綺麗だよね」
「ああ……、まさかこれほどまでとは思わなかった……。こんなにも美しい光景はテイワットの何処を探しても早々見つからないだろうな……」
「はは。ボクもそう思う。前に来た時、あまりにも圧倒されて何度も何度も通ったほどだよ」
おかげでいい唄ができたと笑うウェンティは恋人から視線を櫻へと戻す。
眼前に広がるのは以前と変わらず美しいその風景。だが、何故だろう。以前よりもずっとずっと美しく感じた。
(好きな人と見る景色は違って見えるってどういう原理なんだろう?)
誰と見ようともそこにある風景は変わらない。共に見る相手によって変わる景色があるというのなら、それはきっと夢の中でしか起こり得ないことだろう。それなのに、以前と変わらないはずの風景をより美しいと感じる。花びら一つ一つが輝いているように思える。
ウェンティは『世界』にはまだまだ分からないことが多いと微笑を浮かべ、自分を抱いたまま櫻の美しさに魅了された男の肩に頭を預けた。
言葉では言い表せないほど美しい風景を何よりも大切な人と一緒に見る。それはなんと贅沢な時間だろうか。
穏やかな時の流れを感じながら、ずっとこうしていたいと考えるウェンティ。
肌を重ねた時とは違う幸福感に満たされていれば、不意に風が乱れる気配を感じた。
「おやおや、何やら懐かしい気配がすると思えば随分珍しい参拝客が居るではないか」
耳に届くのは音だけで色香を醸す女性の声。恋人の肩越しに相手を確認すれば、予想通りの姿がそこにあった。
「やっほー。また来たよ、八重宮司様」
「汝の気の抜けた声は櫻に合わぬな、詩人殿」
色香を振りまきながら歩く姿に惑わされる者は多いだろう。流石は化け狐、と心の中で思いながらも笑顔で手を振るウェンティ。
その笑顔には邪気など全く籠っていないにもかかわらず察しの良い八重は妖艶に笑い、二人の前で足を止めた。
「詩人殿はともかく、まさか貴殿が稲妻を訪れるとは思いもせんだ」
「以前の俺なら、そう思われて当然だろう。だが、この目で世界を見ることの大切さを教えられてそれを無下にするほど無能ではないつもりだ」
「久しく会わぬ間に随分と柔い表情をするようになって」
「変わったつもりはないが、お前がそう思うのであればそうなのだろう」
「妾だけでなく、皆が思うことじゃろう。……昔は毛嫌いしていた相手を愛おしそうに腕に抱いておいて『変わってない』は無理があると思わんか?」
意地の悪い言葉を選ぶ八重はこちらを挑発しているのだろうか?
クスクスと笑う姿も艶めかしい。弧を描く眼はねっとりと絡みつくような眼差しで、狐というよりも蛇に近いと思うウェンティ。意味深な微笑は気味が悪く、無意識に恋人にしがみ付いてしまう。
すると警戒を察したのか、自分を抱きしめる腕に力が籠った気がした。思わず視線を向けるのだが、鍾離は笑顔のまま八重と言葉を交わしていてこちらには気づいていないようだ。
(なんだか、モヤモヤする……)
先程の八重の言葉が聞こえなかったのだろうか?
彼女は鍾離がウェンティを嫌っていたと言ったのだが、それを否定することも訂正することもせず笑いながら言葉を交わしている。
(そりゃ、好かれてるとは思ってなかったけどさぁ……)
昔はことある毎に怒られていたため、好意を持たれていたとは流石に思っていない。
だが、今は昔と違い恋仲と呼ばれる関係だ。多少なりともフォローはあってもいいはずでは? とウェンティが思うのも無理はない。
「折角二人揃って稲妻を訪れたんじゃ、是非影にも顔を見せてやって欲しいんじゃが、都合をつけることは可能かえ?」
「『影』―――バアルゼブルのことか。彼女は今何処に?」
「おそらく一心浄土に引き籠っているはずじゃ。アレは『陰キャ』だからな」
「『陰キャ』?」
「そうじゃな……貴殿にも分かる言葉では何といえばいいか……。『根暗』、と言えば分かるか?」
唇を指でなぞって考え込む八重。無駄に垂れ流されている色香に噎せそうだ。ウェンティは腹の底に言い知れぬ不快感を覚え、鍾離にしがみ付く。
鍾離はそれに抱擁で応えてくれるも、視線はもらえなかった。
何故? その言葉にウェンティの頭の中は占拠され、一抹の不安が脳裏を過った。