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「なんじゃその目は。言いたいことがあるならハッキリ申せばよいであろう?」
色香漂う女は何処までも意地悪く笑う。きっと彼女は見透かしている。ウェンティが自分を妬んでいることを理解しているからこんな風に笑うのだろう。
悔しさにのあまりウェンティは言葉を詰まらせ、惨めな自分に唇を噛んだ。
しかし打ちひしがれる少年の耳に届くのは恋人の声。その言葉は予想外で驚きを隠せなかった。
「宮司殿がそう言うのなら、言葉に甘えて言わせてもらおう。人の恋人に色目を使うのは止めて貰えるかな? 旧友と争うことは俺の本意じゃない」
「随分な言い草じゃのお、モラクス。妾がいつバルバトスに色目を使ったと言うんじゃ? 久しく顔を見ていなかった友と楽しく談笑しておっただけじゃろう?」
「散々挑発しておいてか? バアルゼブルの眷属でなければ許しがたい虚言だな」
それが宣戦布告であるというのなら、受けて立とう。
そう言った鍾離の手には破天の槍が携えられており、状況についていけないウェンティも流石にぎょっとしてしまう。
「も、モラクスっ?」
「止めてくれるな、バルバトス。今お前がこの狐を庇おうものなら俺はバアルゼブルと決別することになる」
武器を握る手に力が籠ったことが筋肉の動きで分かる。
鍾離の眼差しは変わらず八重に真っ直ぐ向いているが、その目に宿るのは確かな怒気だった。
女の魅力に惑わされていたのではないのかと困惑するウェンティ。すると八重は楽し気な笑い声をあげた。
「なんとまぁ、これは聞きしに勝る寵愛ぶりじゃのお。まさかあの堅物モラクスが風来坊を寵姫とするとはまさに青天の霹靂じゃ」
「なんとでも言え。これの魅力は俺だけが知っていればいい」
「おぉ怖い怖い。このままでは妾の命が危なそうじゃの。仕方ないからネタ晴らしをしてやろう」
恐怖など微塵も感じていないだろうに大袈裟に怖がる振りをする八重。
何処までも楽し気な八重の真意も分からないが、ウェンティは彼女以上に鍾離の言動が理解できなかった。八重と楽し気に談笑していたのは自分ではなく彼の方だったからだ。
「妾が煽っていたのはお主ではなくこやつの方じゃ」
そう言って八重が指さすのはウェンティだった。どうやらそれに鍾離は面食らったようで、彼を纏う風は怒りから困惑に変化していた。
「まさか貴殿まで釣れるとは思わなんだ。妾には釣りの才能があるのかもしれんな」
「……つまり、どういうことだ?」
「なんじゃ。察しが悪いのお。さっきまでの聡明さは何処に行ったのやら」
「くだらん駆け引きはもううんざりだ。力づくで口を割らせてもいいんだぞ?」
「そうカッカするな。ちゃんと教えてやるから。……よかったのおバルバトス。妾を妬んでいたのはお主だけではなかったぞ」
紅色の唇を持ち上げ笑う八重はウェンティのヤキモチをあっさりと暴露する。慌てて彼女の口を塞ごうと手を伸ばすも、鍾離の腕に抱かれた身では届くはずもない。
楽し気な女はひとしきり笑うとねっとりと絡みつくような眼差しを向けてくる。
「貴殿が妾に目移りするなどあり得ぬ妄想に耽るほどこの風来坊を色惚けにするとはな。岩の魔神の魅力には恐れ入る」
「……今の話は、真実か?」
「うぅ……、だって、ずっと八重の方ばかり見てボクの事無視してたじゃないか……」
漸く目が合って安心するも、その驚きに満ちた表情に居た堪れなさが勝って目をそらしてしまうウェンティ。
言い訳じみた言葉を紡げば、顎を掴まれ強制的に視線を戻された。だが見つめ合うよりも先に視界はぼやけ、真っ暗になる。口内で暴れ回る熱に嬌声が漏れ、そこで漸く鍾離に口づけられ反射的に目を閉じていたとウェンティは気づいた。
「随分情熱的な接吻を見せてくれるものじゃの。官能小説作家がこの場に居れば良い刺激になっただろうに、実に惜しい」
「只見は此処までだ」
「勝手に見せつけておいて横柄じゃの。まぁよい。して、いくら払えば見せてもらえるんじゃ?」
「いくら積まれようとも見せるわけがないだろうが。これの愛らしい姿を見ることができるのは番の特権だ」
ウェンティの蕩けた顔を隠すように己の肩に埋め抱きしめる鍾離は、八重を牽制する。できることなら先程見せた口づけの最中の表情を記憶から消してくれ。と。
独占欲を隠さない男に八重は笑いながらも岩の魔神の揺るぎない寵愛に掴まった風の精霊を憐れんだ。