TREMOLO [ANNEX]

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風神が嫉妬する話

14



 自分を抱きしめて離さない恋人の腕からふと力が抜けた。
 きっと顔をあげろということなのだろうと解釈したウェンティがおずおずと恋人の肩から額を離せばいつも通り、愛しみを隠さない眼差しとぶつかった。
「俺が目移りすると思ったのか?」
「ご、ごめん……」
「いや、謝らなくていい。むしろお前に愛されていると実感できて気分が良いぐらいだ」
 頬を擽るように撫でてくる鍾離。その眼差しはもちろん、触れる指先からも感じる確かな『愛』に、胸を圧し潰すような苦しみがふっと消えたように感じた。ウェンティは鍾離の指に頬を摺り寄せ、「ボクは最悪の気分だった」と醜い感情に苦しい思いをしたと吐露した。
「今もそうか?」
 愛し気に細められる眼差しと囁くような甘い声。鍾離からの問いかけにウェンティは小さく首を振る。最悪な気分は何処かへ行ってしまった。と。
 ウェンティの答えに満足気に笑う鍾離。彼は恋人の頬をその大きな掌で包み込むと首を伸ばし今一度啄むように口づけた。
「……お前の不安が完全に払拭されるよう、今宵も愛させてくれるか?」
「ちゃんと加減してくれるなら、いいよ」
「それは難しいが、善処しよう」
 額と額を小突き合わせて笑い合う二人はなんとも幸せそうだ。このまま放っておけばより親密な雰囲気を醸し出すことだろう。此処が屋内で二人だけの空間ならそれもまた良いだろう。だが残念ながらここは屋外であり、目の前には二人を焚きつけた存在がいるため睦み合いは此処までだ。
「妾の存在を忘れるでない」
「忘れてなどいない。だが宮司殿は恋人の睦事を凝視する不躾さを直した方が良いぞ」
「安心せい。妾の前で睦み合うのは貴殿らぐらいだ」
 仲睦まじい旧友達に苦笑を漏らす八重は、これ以上神聖な場所を穢すなと苦言を呈してくる。
 神聖な場所で挑発してきたのは誰だと思わないでもないが、余計な諍いは避けた方が得策だとウェンティは口を噤んだ。まぁ、視線には思いが乗ってしまい軽口を貰ってしまうのだが。
 八重の揶揄い交じりの挑発に応戦するか否か。ウェンティが迷いながらも口を開こうとすれば、割って入ってくるのは鍾離だった。
「人の番にちょっかいをかけるなと忠告したはずだが?」
「ただの戯れじゃろう。嫉妬深い男は嫌われるぞ?」
「バルバトスに好意を持っていると言った奴の言葉を信じられると思うか?」
「待て。いつ妾がバルバトスを好いていると言った? 色眼鏡もほどほどにせい」
 表情を苦笑から呆れ顔に変える八重は笑えない冗談だと鍾離の言葉を一蹴する。だが、思いこんでいる鍾離にはそれすらも自分を煙に巻くための演技だと捉えられてしまって……。
 一体先のやり取りの何処をどう見れば好意があると思うのかと頭を抱える八重に、申し訳ないがウェンティも激しく同意してしまう。悪意こそあれ好意などまるでなかったよ。と。
「しかし『ぎゃっぷもえ』と言っていただろう?」
「阿呆。アレは唯の揶揄いじゃろうが。ふらふらと根無し草だった奴が一所に留まるなど思いもしなかったんじゃ」
「それを好ましいと思ったんだろう?」
「じゃから! 嫌味じゃ! 嫌味! 男に溺れて信念を曲げるなど本来こやつの性格ではないじゃろうが」
 石頭は健在か! と八重はツッコミ、ウェンティに視線を向けると「なんとかせい」と縋りついてくる。頼む立場でありながら何故命令口調なのかと思わないでもないが、妖艶な女にこれ以上揶揄われるのは御免だから彼女に加勢することにした。
「モラクス、ボクを揶揄う彼女の風は淀んでいたから八重の言ってることは本当だよ」
「しかし……」
「ボクの嫉妬を煽るための嫌がらせだってば」
 八重はウェンティに絡めば独占欲を露わに鍾離が留めに入ってくると予想していたのだろう。そしてちょっかいを留めるために女の興味を自分に向ける恋人を見てウェンティが嫉妬する様を見て愉悦に浸っていた性悪だ。
 まんまと彼女の思惑に嵌った二人は想定通りに動き、彼女の言葉は全て二人の嫉妬を煽るためのものだったというわけだ。
「……嘘偽りないとバアルゼブルに誓えるか?」
「影に誓って嘘など吐いておらぬ」
「分かった。一先ず信じよう」
「やれやれ……、男ができて変わったのは貴殿も同じという事か」
 今後は不用意に揶揄わないと肝に銘じておくと肩を竦ませる八重は踵を返すと妖艶な腰つきで二人のもとから立ち去ったのだった。



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2023-09-15 公開



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