TREMOLO [ANNEX]

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風神が嫉妬する話

22



  愛おしいと言う感情には際限がない。
 どれほど愛し合おうとも全然足りないと感じるのは、抱かれれば抱かれるほど鍾離に溺れて行っているからだろうか?
 快楽に呑まれながらも唯一の存在を求めて縋りつくウェンティは、幾度目かの愛を受け取った直後、込み上がってくる激情を抑えきれずに愛しい人の名を呼んで泣き出してしまった。
「もらくすっ、もらくすぅ……」
 まるで赤子だと冷静な自分が醜態に嘲笑するが、どうしても感情を御することができなかった。
 愛し合う行為の最中に大泣きするなんて、相手にも失礼だろう。自分のせいで涙しているのかと心配をかけてしまうかもしれない。
 それも全部分かっているのにウェンティは零れる涙を止めることができず、せめて視界に入れない様にと両手で顔を覆い隠し、愛し過ぎて苦しい想いを吐き出すように泣いた。
 決して悲しいわけではない。辛いわけでもない。ただ自分を抱く存在が愛おしすぎて苦しいのだ……。
「そんなに泣くな。大丈夫、俺も同じだ」
 涙を隠すための手を退かすのはもちろん鍾離で、彼は苦笑交じりにウェンティに覆いかぶさるとその瞼に目尻に口付けを落としてきた。
 愛し合っている最中に大泣きした自分に呆れているのだろうかと顔を歪ませるウェンティ。だが、鍾離は「この苦しみは増すばかりだな」と笑いかけてきた。
「もらくす……?」
「どんなにお前を抱こうとも、決して満たされることがない。もっとお前を愛したいとこの身体―――いや、魂が叫んでいるようだ」
 どうすれば満たされるのか分からない。
 そんな言葉を続ける鍾離にウェンティの瞳からはますます涙が零れてしまう。まさか愛しい彼も同じ苦しみを抱いているとは思わなかったから。
 ウェンティは零れる涙をそのままに鍾離にしがみ付き、分からないと涙声を絞り出す。
「しあわせなのにっ、こんなにしあわせなのに、くるしいよぉ」
「分かっている。……だが、愛しいが故の苦しみだ。耐えるしかない」
 幼子をあやす様に鍾離は抱きしめてくる。
 しかし、優しい腕とは反対に意地悪にも「それとも、この苦しみから逃れる道を選ぶか?」と酷い質問を投げかけてくる。答えなど分かりきっているだろうに。
 ウェンティは嫌々と首を横に振り、苦しいままでいいと鍾離にしがみ付く。愛しているが故の苦しみから逃れる道。それは彼との別れを意味していたからだ。
 鍾離は安心したと笑い、できることならこのままウェンティを閉じ込めてしまいたいとその額に口付けを落とした。
「いや、いっそ肉体が無くなればお前と共に在れるか?」
「! やだっ! からだ、なくなるのはやだっ!」
「何故だ? 共に在りたいとお前は思ってくれないのか?」
 男の表情に落ちる影。想いは同じはずなのにどうして? と。
 ウェンティにとって己の肉体が大切だということは鍾離も理解している。風の中に生きる元素精霊の一つでしかなかった彼に個を与えた亡き友を象った器なのだから。
 しかしいくら大切な器とはいえ、返されたのは夢から醒める言葉。鍾離が悲しみを覚えるのは当然だろう。
 だが憂いを見せる鍾離の頬を包み込むのはウェンティの手で、彼は恋人の琥珀色を探すように見つめると『拒否』の真相を昂る感情のまま吐露した。
「このからだがなくなったら、モラクスにさわれないっ! そんなの絶対、やだっ!」
 時折鮮明になる言葉もあるが呂律はもつれてウェンティの激情が伝わってくる。
 愛しい人に触れたい。触れられたい。だから、この境界はどうしても無くしたくない。
 そう懸命に伝えるウェンティ。
 鍾離は驚きその琥珀を見開いたが、すぐにくしゃりと表情を崩すとお返しとばかりに恋人の頬を両手で包み込むと言葉にできない愛を込めて口付けた。



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2023-09-21 公開



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