TREMOLO [ANNEX]

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風神が嫉妬する話

28



「どうだ? あったか?」
「うーん……、無い、かなぁ……?」
 陽が空で燦々と輝く昼下がり、鍾離とウェンティは櫻の木々の根元に視線を向け、何やら探し物をしているようにウロウロと同じ場所を行ったり来たりしていた。
 3往復したあたりで半ば諦めていたウェンティは足を止めると鍾離を振り返り、「やっぱり風で飛ばされちゃったみたい」と苦笑を見せた。
 鍾離はなおも木々の根元を覗き込んだり、咲き誇る櫻の枝木を見上げたりしている。
 既に片手で足りないぐらい何度も行き来して探しているにもかかわらず、探し物は見つかっていない。元素の痕跡を辿ることも試したが、雨でも降ったのか僅かなそれも見つからなかった。
 元素の痕跡は無くなっており、探す手段は目視だけ。しかしそれも何度も何度も繰り返している。それでも見つからないのだから、もう探し物は此処には無いと考えるのが妥当だろう。
 ウェンティは散々探して見つからないのだからもう諦めようと鍾離に提案するのだが、鍾離はそれに生返事を返すと来た道を戻り、また探し始めていた。
「モラクス! ねぇ、ボクの話聞いてる? 何回探しても同じだってば!」
「分かっている。分かっているが、形あるものが消えるわけがないだろう?」
「消えなくても風で飛ばされることはあるよ! ただの布切れなんだから!」
 もういいから! 探さなくていいから!!
 そう言って鍾離の腕を掴むウェンティ。引き留めに動きを止める鍾離だったが、振り返った彼の表情は険しく、不機嫌そうだった。
 ウェンティは恋人の表情に思わず苦笑いを濃くし、「もぉ……」とその頬に手を伸ばした。
「そんな顔しないでよ」
「……すまない。俺のせいだ」
「だから、さっきから言ってるでしょ? 『モラクスのせいじゃない』って」
「あの時欲を抑えられなかったのは俺だ。俺のせいではないとは思えない」
 鍾離は顰め面のまま謝ると、想像するだけで腸が煮えくり返ると吐き捨てた。
 一体何を想像してそんなに不機嫌―――怒りを感じているのだろう?
 ウェンティは苦笑いを浮かべたまま、恋人の不機嫌の原因を尋ねた。探し物が見つからないから腹を立てているわけじゃないのか? と。
「見つからないことに対しては焦りを覚えるだけで腹を立ててはいない。だがもし何者かが持ち去っていたと考えると、怒りがこう、沸々と……」
「! ちょ! ストップストップ! 力抑えて!! 稲妻の地形を変えたりしたらバアルゼブルに殺されるよ!?」
「っ―――、すまないっ」
「焦ったぁ……。もう! 普段はボクに落ち着きを持って行動しろって言うくせに!」
 武神の名に恥じぬ逞しい男の体躯を纏っていた大地の元素が目に見える程増大しては流石のウェンティも焦ってしまう。
 健在している中では最古の魔神であるモラクスの力は、いまだ健在。大地を裂き山々を崩すほど強大な力を暴走させられては、最弱の神と名高かったバルバトスでは止めることは不可能だ。
 怒りのあまり我を忘れそうになる恋人を必死に呼び戻せば、大地が共鳴する前に彼を正気に戻すことができて一安心だ。
 ウェンティは鍾離の手を取ると己の胸元に導き握りしめる。
「モラクスって本当、ボクの事大好きだよね?」
「? 何故そんな当たり前のことを聞く?」
「んー。なんか、改めて実感した!」
「『改めて』? そうか……、やはり2日程度では足りなかったか……」
「2日じゃなくて、5日間! 到着してからの3日間と昨日までの2日間で合計5日間もエッチしてるんだよ、ボク達。稲妻観光は間の半日だけなんだからね?」
 おかげで身体中ボロボロだよ!
 そう言って唇を尖らせるウェンティだが、不機嫌は形だけ。
 上目遣いで鍾離を見つめると「それなのにまだ探すの?」と、もう探し物は諦めて観光という名のデートがしたいと訴えた。



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2023-09-25 公開



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