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波を切り進む船には気持ちの良い風が吹いている。甲板に出た鍾離は自分にしがみ付いている恋人名を呼び、先程よりも大きくなった櫻の大樹を指さした。
「遠くを見ることで幾分マシになると聞いているが、どうだ?」
「わかんないぃ」
「そうか……。ああでも、見て見ろ、桟橋が見えてきたぞ」
「うー……、お願いだから、船の速度、上げてぇ……」
目を開けることも困難なほど気分が悪いのだろうか。ウェンティは恋人の腕の中でその身を委ねるようぐったりしている。
鍾離は苦笑を漏らしながらも到着したら1番に船を降りれるよう乗船口へと歩みを進めた。唸り声の合間に聞こえるのは謝罪の言葉で、鍾離はその度に謝る必要はないと恋人の額に口づける。
乗船口の付近には、到着を今か今かと待ちわびている人集りができていて、いの一番に降りることは難しそうだった。
こればかりは仕方ないと思いながらも、恋人を心配するあまり事情を話して順番を譲ってもらおうかと考える鍾離。だが、鍾離が行動に移すよりも先にウェンティから止められてしまった。自分が何をしようとしているか口には出していないはずだが、どうやら恋人には全てお見通しだったようだ。
「あと少しなら我慢できるからね」
「とてもそうは思えないが」
「できるってば。外はやっぱり風が気持ちいぃし、何より君が傍に居てくれるんだし」
甘えるように肩に頭を摺り寄せてくるウェンティに、鍾離が見せるのはこの上ない程優しい笑み。桟橋に付いたらまずは宿で恋人の回復を待とうと思っていたはずなのに、あまりの愛おしさに無体を強いてしまいそうだ。
「あまり誘惑してくれるな」
「誘惑なんてしてないよ。ただ本当のことを言ってるだけだし……」
ウェンティはぐったりとしている。酷い船酔いに思考も儘ならないのだろう。普段の彼ならこんな場所では決して口にしない可愛らしい言葉をつらつらと並べてしまっているのだから。
鍾離は緩む口角を引き締めるように咳払いを落とし、宿に着いたらまずはゆっくり休むように伝えた。自分は薬師を探して船酔いに効く調合を頼みに行くから。と。
「一人で留守番はできるか?」
「できるけど、淋しいかも……」
「お前というやつは……。はぁ……、頼むから早く普段のお前に戻ってくれ」
「ごめんってば……」
迷惑かけるつもりは本当になかったから怒らないでよ……。
弱り切っているウェンティはそう言いながら表情を泣きそうに歪めた。鍾離はそんな恋人に「違う」と伝える。ウェンティが思っている理由で体調の回復を望んでいるわけではないのだから。
「体調が回復しなければお前を愛せないだろう?」
「なんでそうなるの? 今のボクじゃその気にすらならないでしょ?」
「確かに苦しんでいる姿に興奮する酔狂さは確かに無い。だが、愛しい相手に触れたいとは四六時中思っている。……お前が良いというのなら、証明しようか?」
尋ねてくる恋人に青白い顔をして何処か虚ろな瞳のウェンティは「今は抱きしめてくれるだけがいい」と愛し合う事を拒否してきた。まぁ、体調を考えれば当然のことだろう。
鍾離は何処までも素直なウェンティに笑みを浮かべ、「残念だ」と額に口付けを落とした。
「だって仕方ないじゃないか。君の、此処まで入るんだよ? そんなの絶対苦しいでしょ?」
力の入らない手でウェンティは腹の上部を擦り、いつものように気持ちよくなれる自信がないと呟いた。
まさかの言葉が連ねられ、鍾離は笑顔から一変、真顔になってしまう。
「もらーー、鍾離先生? どうしたの?」
「あ、ああ……、いや、何でもない」
「? とにかく、宿に着いたら薬は良いからしばらくこうしていようね」
喋っていると気分が紛れる。でも喋りすぎると削られた体力が限界を迎えて酷い疲労感に襲われる。ウェンティは再び鍾離に身を委ね、「はやく降りたい……」と切実な願いを呟き、目を閉じた。自分を抱いている恋人の動揺などまったく気づいていないだろうその姿は純真を通り越してもはや小悪魔的だと鍾離は空を仰いだ。