TREMOLO [ANNEX]

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風神が嫉妬する話

32



「俺の考えは伝えたはずだが?」
「愛玩動物を撫でただけですが、これだけでも貴方を刺激することになるんですね。覚えておきます」
 影は表情を変えずウェンティの頭から手を引くと踵を返して歩き出す。
 彼女が向かっているのは鳴神大社の方向で、おそらく眷属の神子に会いに来たのだろう。
 鍾離は旧友の後姿を見送り、ウェンティに帰るかと尋ねる。
 鍾離と影のやり取りについていけなかったウェンティはそこで漸く思考が動き出し、戸惑いながらも黙って頷きを返した。
 繋がれる手は優しく引かれ、これから稲妻観光を楽しむと言うには空気が甘すぎた。ウェンティは今回はもう観光は諦めて次の楽しみにしようと唇を噛みしめた。
「モラクス」
「! なんだ? バアルゼブル」
 いざ下山しようとしたその時、少し離れた場所で立ち止まっている影の声が声を響かせた。
 まだ用かと鍾離が尋ねれば影は腰に手を当て重心を片足に乗せると「何処に行くのですか。早く来なさい」と女王様然に言い放った。
 どうやら自分達を御前に呼んでいるのだろうが、何故呼ばれているのか分からない鍾離とウェンティ。二人は顔を見合わせ首を傾げた。
「モラクス、バルバトス。聞こえているのでしょう?」
 僅かだが声に怒気が含まれた。待たされることに苛立っているのだろうか?
 鍾離は肩を竦ませ仕方ないと言わんばかり。ウェンティもそれに苦笑を漏らし、影に従い彼女の元へと二人で向かった。
「どうかしたのか?」
「それは私の台詞です。積もる話もあるだろうからと神子が茶席を用意してくれているのですよ」
「確かにそのような話をしていたが、詳細な日時の連絡は受けていない。お前は聞いていたか?」
「聞いてない。そもそもボクはそんな話になってたことすら知らなかったんだけど……」
 表情を曇らせるウェンティ。
 八重と会ったのは二日前に二人で鳴神大社に来た時だけだと思っていたが、今の話からそれ以外でも鍾離は八重と会っていたことになる。
 洞天で丸二日セックスに明け暮れていたとはいえ、ウェンティは常に意識があったわけではない。絶倫すぎる恋人に抱き潰されて意識を失って眠りに落ちてしまった時間も僅かだがあった。
 目覚めると傍に鍾離は居たのだが、まさかその間に八重と会っていたのでは? と不穏な感情が顔を出す。
「鳴神大社でそういった話をしていただろう? まさか覚えてないのか?」
 疑心にぐるぐるしていたウェンティの思考を止めるのは鍾離の驚いたような声。まさかたった2日前のことを覚えていないのか? と。
 ウェンティはその言葉にいつの間にか下がっていた視線を上げると「2日前……?」と縋るような眼差しを向けた。
「そうだ。狐が何かとちょっかいをかけてきていただろう?」
「酷い呼び方ですね。いくらモラクスと言えど聞き流せませんよ」
「ああ、すまない。挑発されたことを思い出してしまってつい口が滑った」
「人を揶揄って遊ぶことは神子の生きがいです。知っていたでしょう?」
「俺個人に対してなら、笑って流せる。しかし、これにちょっかいをかけられるとどうにも無理だ」
 またポンポンと叩かれる頭。その手は変わらず愛おし気で、ウェンティは勝手な妄想で恋人の不貞を疑ってしまったことに罪悪感を覚えた。
(ごめんね、モラクス)
 心の中で鍾離に謝るウェンティ。
 目の前の二人はそんな彼に気付かず八重の性格について何やら議論していた。



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2023-09-27 公開



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