TREMOLO [ANNEX]

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風神が嫉妬する話

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「こうも平行線だと埒が明かないですね。分かりました。これは私と貴方の認識の違いということで納得しておきます」
「ああ、それが良いだろうな」
 無意味なことに時間を使ったとお疲れの様子の影に、鍾離も同意見なのだろう。重々しくため息を零しているから。
 ウェンティは二人が閉口したタイミングで「そろそろ行かない?」と、とりあえず鳴神大社に向かうことを提案した。
 鍾離も影もそれに異論はないようで、頷きを返してくる。
 まず歩き出したのは影で、ウェンティはそれを追うように彼女の隣に駆けてゆく。
「バアルゼブル」
「なんですか? モラクスの傍に居なく良いのですか?」
「すぐ後ろに居るからいいでしょ。それよりも、わざわざ一心浄土から出てきてくれたんだね。ありがとう」
「昔のように外と自分を断絶する必要はありません。呼ばれれば応じますし、私の意思で出ることも多々あります。礼を言われるような事ではありませんよ」
 背筋を伸ばしまっすぐ前を向いて歩く姿は凛々しく、稲妻の神としての気品を感じる。
 影は本当の意味で自由になったテイワットで神の座に残り続けると言った。ウェンティはその決断に『何故?』と疑問を抱いていた。
 モンドの建国者である魔神デカラビアンは己の力で民を虐げてきた邪神的存在だった。きっと彼もモンドを建国した当初は民をあのように支配するつもりなど無かったはずだ。
 しかし、時間と共に己の力に陶酔した魔神は支配者に堕ち、最終的に民によって討ち取られた。
 永すぎる時間と大きすぎる力は、時にその者の心を壊す。誰よりもそれを知っているウェンティは、隣を歩く女性がいつか第二のデカラビアンになってしまうのではないかと懸念を抱いていたのだ。
「それで、私に何が聞きたいのですか。バルバトス」
「え? ボク、そんなこと言った?」
「そのように熱心に見つめられてはモラクスじゃなくとも気づきます。もっとも、その眼差しに込められた疑念は彼に対しては無い感情でしょうが」
 前を向いたまま淡々と言葉を紡ぐ影はウェンティを見透かす。
 どうしてわかったんだと思わず声を挙げれば、彼女の口角は笑みを象るように持ち上がった。
「武神程ではないにしろ、私も戦うことに秀でた魔神です。見くびらないで貰いたいですね」
「うっ……、そうだった。君はバアルの影―――稲妻を守る剣だったよね。忘れてた」
「思い出していただけて光栄です」
 随分と人に染まったようでと笑う彼女に、ウェンティはその言葉が嫌味か誉め言葉か分からないと頬を膨らませて見せた。
「その判断は貴方に任せます。……それで、何が聞きたいんですか?」
 笑みを絶やさないところを見るとおそらく嫌味だったのだろう。
 ウェンティは不機嫌な面持ちのまま彼女に己が抱く疑問をぶつけた。君は稲妻を支配したいの? と、率直な言葉で。
「そうですね……。民が『支配』を望むのであれば、応えるつもりです。ですが、それを望まれることは永劫無いでしょう」
「それならどうして雷神のまま『将軍』の地位に居るの?」
「愚問ですね。民がそれを望んだからに決まっているでしょう?」
 前を向いたままの影の表情から笑みは消えていた。変わりにその横顔からも真剣な想いが伝わってくる。
「かつての貴方の国のように民が『解放』を望んだ結果の『自由』であれば、神が去っても大した混乱は起こらないでしょう。ですが意図せず『自由』が舞い込んだ場合、多くはそれに戸惑いを覚えるものです。私は神の座を降りるのはその『戸惑い』が無くなってからでもいいと判断したまでです」
「それじゃ、稲妻の人達のために今も雷神でいるってこと?」
「そうです。絶対的な存在が居ることで安堵する者が居ることを貴方は覚えておくべきです」
 影が口にするのは昔を責める様な言葉だったが、負の感情は感じない。むしろ穏やかな風を纏う彼女に、影なりの激励なのだろうとウェンティは理解した。
「そうだね……。うん。覚えておくよ。ありがとう、バアルゼブル」
「礼には及びません。ですが、そろそろ彼の隣に戻ってください。私はまだ彼を尊敬していたい」
「え? あー……、ごめん……」
「貴方が謝ることではありません。龍族は執着心が強く、それでいて執念深い生き物です」
「そうだね。僕の友達も龍族だし、同じことを言っていたよ」
「ただ、聡明な方というイメージとかけ離れた今の姿には些か戸惑いを覚えます。さぁ、お戻りなさい」
 歩く速度を速める影。反対にウェンティは歩調を緩め、少し後ろをついて歩いていた男が追いついてくるのを待った。



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2023-09-28 公開



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