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「心配事は解消されたか?」
隣に並んだ鍾離の第一声にウェンティは苦笑いを零し、「おかげさまで」と頷いた。
影といい鍾離といい、どうしてこうも心を見透かしてくるのか。魔神には他者の心を読む力が備わっているのでは? なんて考えるウェンティ。隣から聞こえる「心は読めないぞ」と言う笑い声には心底驚かされた。
言葉なく疑いを向けるウェンティ。鍾離は楽し気に笑いながら、昔が嘘のように分かり易くなったと頭を撫でてきた。
「それってどういう意味? もしかして、馬鹿にしてる?」
「そうじゃない。昔のお前は一人で何もかも背負い過ぎていたのだろうと思ってな」
「意味が分からないんだけど」
「分からないならそれでいい。ただ、頼られているようで俺には喜ばしい変化だと言うことは伝えておく」
頭を撫でていた手で肩を抱き寄せられ、途端に歩き辛くなる。照れ隠しよろしくとばかりにそれを口にすれば恋人は「抱いて歩けばいいか?」なんて意地悪なことを聞いてくる。
2日前と同じく自分の足で歩かず大社に到着すれば、玩具を見つけたとばかりに八重に揶揄われるに決まっているだろう。ウェンティはそれは嫌だと鍾離の意地悪を断固拒否したのだが、鍾離の残念そうな横顔を見ると心が揺らいでしまうから困ったものだ。
「ああ、そうだ。『喜ばしい変化だ』とは言ったが、あくまでも俺に対しては、ということを忘れるなよ?」
「だから、そもそもの意味が分からないんだけど!」
「なら、先程の振る舞いは無自覚か? 困ったものだな」
「ねぇ、会話する気ある? ボクは『分からない』って言ってるんだけど?」
「そう怒るな。……以前のお前は隠し事を悟られぬよう無茶な振る舞いをしていただろう? それが無くなって安心していると言う話だ」
分からない話を分からないまま進められれば不機嫌にもなると言うもの。
しかしウェンティがそれを露わにすれば直ぐに鍾離は教えてくれた。彼が何に対して喜びを感じているかを。そしてそれは彼が昔から自分を気に掛けてくれていたことが真実だと教えてくれた。
「まさか、全部分かってたの……?」
「全てではないがおおよそは。……お前が生き急ぐのを何としても止めたかった。お前が守るために命を顧みないと言うのなら、そんなお前を守るのが俺の使命だとすら思っていた」
見上げる横顔は穏やかで、その表情には微笑みすら浮かんでいた。当時を懐古しているのか微笑みは僅かに憂いを含んでいたが、それでも幸せそうな笑みには違いなかった。
ウェンティは言葉を詰まらせ、恋人にしがみ付く。彼は声を出して笑い、「お互い守ることができて良かったな」なんて言ってくるから目頭が熱くなった。
「……泣いているのか?」
「ないてないっ……」
涙声の癖に強がるウェンティ。鍾離は追及することなく「そうか」とただ穏やかな笑みを絶やさず恋人の肩を抱く手に力を込めた。
「旅とは良いモノだな。日常から離れることで普段は言えぬ言葉もつらつら出てくる」
「だ、しすぎだよっ……」
甘い言葉も嬉しい言葉もたくさん貰った。貰い過ぎてこの数日で何度泣きそうになったことか。
鼻を啜り必死に平静を装うウェンティに鍾離は立ち止まると身を屈め口付けてくる。突然のことに目を見開けば、悪戯に笑う鍾離と目が合った。
「旅先で番を口説かないわけがないだろう?」
冗談交じりにそんな言葉を囁く男にウェンティの顔は一瞬で真っ赤に染まった。
「熟れたリンゴよりも赤くなっているぞ」
「だ、誰のせいだと思ってるのっ!!」
「番との旅に浮かれた男のせいかな?」
愉快だと笑う鍾離は再び歩き出す。肩を抱かれているウェンティもそれに抗うことなく歩みを再開するのだが、「浮かれ過ぎだ!」と非難の声を上げたのは暫く歩いてからだったとか。