TREMOLO [ANNEX]

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風神が嫉妬する話

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「これに懲りたら旅先では控えることですね」
「何がだ?」
 コトリと音がする方に視線を向ければ、影がテーブルに置いた湯飲みを手にしたまま澄まし顔をしている。かけられた言葉の意味が分からない鍾離は眉を顰め、一体何の話だと彼女に突っかかった。
 随分機嫌が悪いようだと笑う影は、先のウェンティの酔い具合の一因は鍾離にあると言ってきた。心当たりのない鍾離はその言葉にますます表情を顰め、更なる説明を求めた。
「疲れなどで体力が低下している時にアルコールを摂取すればそれだけ回りは早くなります。バルバトスも万全の体調であればあの程度では酔わなかったでしょうが、連日貴方と睦み合っていたのであれば寝不足な上肉体的な疲労はかなりのものでしょう」
「そ、れは……」
「武神である貴方と違い、バルバトスは風の元素精霊。元々の体力には雲泥の差があります。加えて、おそらく受け入れているのはバルバトスの方でしょうから、その負担は相当でしょう」
 薄く笑みを浮かべたままつらつらと分析してくれる雷神。鍾離は肩を落として項垂れると「もう十分だ」と影を止めた。
 彼女からは残念そうな声が聞こえたが、それ以上の言葉は続かない。鍾離はそれに若干の安堵を覚え、顔を上げた。
「加減は、していたつもりだった。……でも、そうだな。休息は必要だった」
 思い返してみれば、稲妻に来てからというもの殆どセックスに明け暮れていた。愛おしい存在を存分に愛で倒して自身の愛で埋め尽くしてやりたいという己の想いのままひたすらに求め、抱いてしまっていた。たった数日の間に精根尽きてウェンティが伏せたことも度々あり、それでも足りず求めてしまっていた鍾離は先の泥酔一歩手前の状況は自分が招いたものだと理解する。
 教えられて初めてそれに気づいた鍾離は、複雑な心中ながらも影に礼を述べた。今後は旅先で羽目を外すことの無いよう注意する。と。
「そうしてください。ああでも、バルバトスがそれを望まないかもしれませんね」
「それは困ったな。もし望まれなければ、俺は同じことを繰り返す自信がある」
「もしそうであれば、心のままに振舞えばいいでしょう? ただし、酒は吞ませないように」
「肝に銘じておく」
 酒を呑ませない。それが一番苦労するかもしれないが、愛で倒して酒を呑む時間を与えなければいいかと考えだす鍾離。
 影はそんな男の横顔に鈴のような声を響かせ笑い、八重に聞きしに勝る色惚け具合だと思ったとか。
 鍾離と影がそんなやりとりをしていた一方その頃、酔い覚ましに外に連れてこられたウェンティは水の入ったグラスを手に美しい櫻を見上げていた。
「どうじゃ? 少しは酔いは醒めたか?」
「んー……。まだちょっとふわふわしてるかなぁ?」
「たったあれしきの量で情けない様じゃのぉ。昔のお主なら、湖程の酒を浴びたとてケロリとしておったじゃろうに」
「えぇ? さすがにみずうみだとよっぱらうよぉ?」
 他より呑めるというだけで、決して際限がないわけではない。限界はちゃんと存在すると笑うウェンティは自身の頬を撫でる風が心地よいと瞳を閉ざした。
 八重はその姿に暫くそうしているよう言ってきて、酔っ払いを放置する気かと絡めば酔っていないと言ったのは誰だと言い返されてしまった。
「お主も心配じゃが、我が主とお主の男を二人きりにもしておけんじゃろう?」
「そーだねぇー」
「こやつ、分かっておらぬな……」
 風が気持ちいいと笑い声が響き、八重はまともに会話をしようとした自分がバカだったと反省する。
 おそらくこの酔っ払いは風にあたって暫くは大人しいだろうと判断した八重は踵を返し鍾離と影が待つ部屋に急いだ。無用の心配だろうが、自分の主が歯に衣着せぬ物言いで岩の魔神の逆鱗に触れてしまわないか気が気でなかったから。
「詩人殿、酔いが程々に冷めれば戻ってくるのじゃぞ」
「はーい」
 角を曲がり姿が見えなくなる前に念のため声をかければ、気の抜けた声が返って来た。



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2023-10-02 公開



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