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聞きたくなくとも聞こえてくる噂話。耳を塞ぎたい気持ちと自覚しなければと言う思いがせめぎ合った結果、結局女性たちの声に聞き耳を立ててしまっている。
まさか話題に上がる『素敵な男性』の恋人が聞いているなど露とも知らない女性達は、敬愛する『将軍様』の恋模様を想像して大いに盛り上がっている。
そんな女性達のテンションと反比例して気持ちを沈ませるウェンティは、ますます部屋に戻れなくなってしまったと悲しい気持ちを吐き出すように溜め息を吐いた。
(バアルゼブルみたいな大人の女性の形になればいいんだろうけど、でも、でもボクは……)
他にも認めて欲しいと思ってしまうのは、『精霊』としての感情でも『神』としての感情でもなく、『人』としての感情だ。
自分も随分らしくなったものだと達観する一方で、この感情に身を任せるべきではないと己に忠告する自分もいる。
人型の器を拵える際、何のためにこの姿を選んだのかを思い出せと自分に言い聞かせるウェンティ。だがそれでも、心の片隅に巣食う不安を拭うことは叶わない。
いつか恋人が他者を選んでしまわないだろうか?
そんなことを考えること自体、彼の想いを冒涜していると分かっているのだが、周囲の声はウェンティの心を陰鬱にさせた。
「大丈夫か?」
俯き自己嫌悪に陥っていたウェンティ。その耳に届くのは恋人の声で、驚き顔を挙げれば心配そうな表情で自分を覗き込んでいる鍾離と目が合った。
「あ……、うん、だい、じょーぶ……」
反射的に顔を上げてしまったことに後悔するが、もう遅い。きっと彼に気付かれてしまったに違いない。自分が泣きそうな顔をしていると。
取り繕うように「なんか呑みすぎちゃった」と明るい声を絞り出したのだが、震えた音では騙されてはくれないだろう。
「こっちに来い、バル―――っ、ウェンティ」
真名を口にしようとして止めたのは、おそらく鍾離も近くに人が居ると気づいたからだろう。楽し気な声は今もなお聞こえているから。
鍾離はウェンティの隣に腰を下ろすとそのまま恋人の肩を抱き、かと思えば抱えあげるように己の膝の上に座らせるように抱き上げてきた。
いつもなら『恥ずかしい!』と抗っていただろう。しかし今は無性に甘えたくて抗うこともせず、むしろ彼に縋りつく様に抱きついてしまう。
愚図る幼子をあやす様に優しい手で背を叩き、「何があった?」と尋ねてくる鍾離。ウェンティは『何でもない』と嘘を吐くことができず、かといって真実を話す気にもなれなくてただ黙って首を横に振った。
『言いたくない』の意思表示は伝わったのだろう。恋人の口から零れるのはため息で、呆れられたかと少し怖くなる。だが、穏やかな声で「分かった」と囁きを落とし髪に口付けてくる恋人からはマイナスの感情は感じられなかった。
「……ごめんね」
「謝る必要はない。こうやってお前が俺を頼ってくれるだけで十分だ」
本心を言えば、話して欲しい。だが、口にすることすら苦しいと言うのなら、その苦しみが消えるまでこうしている。
そう笑う鍾離に、ウェンティの目頭は熱くなる。鼻をツンと突く痛みに耐えて必死に涙を堪えていれば、盛り上がる女性達の声が一層大きく響いて来た。
(あぁ……、最悪だぁ……)
きゃあきゃあと楽し気な声は先と変わらない。話題はもちろん、鍾離と影の恋模様についてだ。興奮すると声が大きくなるとは良く言うが、流石に大きく響き過ぎだろう。
ウェンティは楽しそうな女性達の声に鍾離の上着をぎゅっと握りしめていた。