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揶揄う隙を与えてなるものかと鍾離の膝から逃げるように降りるウェンティ。それを不満に思いながらも恋人を困らせることは本意でないのだろう。鍾離は先程とは異なりウェンティを引き留める手を解いて離れることを受け入れた。
「賢明な判断じゃな」
「どーも!!」
クスクスと意地悪く笑う八重にウェンティは舌を見せる。だがそれ以上は刺激しないように話題を中断させるべく酒瓶に手を伸ばした。
しかし、一度酔い潰れそうになっていた相手が再び酒を呑むことを許す者が居るわけもなく、ウェンティが酒瓶を手に取るより先に影の手によってそれは遠ざけられてしまった。
「バアルゼブル、意地悪しないでよ!」
「都合の悪いことがあると直ぐ酒に逃げるところは変わりませんね、バルバトス」
「逃げてないし! ボクはお酒が好きなだけだよ!」
「それは分かっています。でも、自分にとって不利な状況に陥った際も呑みますよね?」
見透かしたように尋ねてくる影にウェンティは言葉を詰まらせる。
反論がないことを『肯定』と受け取ったのだろう。影はそのまま手にしていた酒瓶を自分の真横に置いてウェンティの視界から消してしまった。
喉奥を鳴らして恨めしげな様子のウェンティだが、鍾離が煎れてくれたお茶で我慢することにしたのか黙って湯飲みに手を伸ばす。
不貞腐れながらも大人しくしているウェンティの頭を撫でる鍾離は影と八重に話題を振り、これ以上恋人が槍玉に上がらないよう誘導する。
彼の思惑に気付きながらも相手が相手であるが故、無視することなく誘導に従う二人はやはり鍾離に一目を置いているのだろう。
扱いの差に不満を抱きながらも自身の恋人はやっぱり凄いと誇らしい気持ちにもなって、ウェンティは何とも言えない表情だった。
それぞれ思うところはあれど、場の空気は実に和やかなもの。時折笑い声を響かせながら会話を楽しんでいた4人。
そんな中、人払いをしているはずの部屋に近づく気配が一つ。その気配からは何やら不穏な空気が感じ取れ、まず最初にそれに気づいた鍾離の表情から笑みが消えた。遅れて寸刻、影も感じ取った気配の方へと視線を向け、二人の視線の先を追うようにウェンティと八重は閉ざされた襖へと目を向けた。
真っ直ぐに向かってくる気配は『人』のもの。雷神が友人を招いていると言うことは大社の者には伝わっているはず。それ故、よほどのことがない限りこの場に近づく者は居ないはずだった。
緊張を覚える一同。近づいていた気配は襖の前でぴたりと止まった。
「宮司様。ご歓談中、失礼します。急ぎ将軍様の耳に入れたい事柄があり、無礼を承知で参上いたしました」
襖の奥から聞こえるのは、聞き覚えのある男性の声。それは神里家の当主・神里綾人のものだった。
男の声には僅かな緊張が滲んでいたが、一同の緊張は緩む。彼の忠誠心の強さは周知の事実であり、影や八重の命に悪戯に逆らうような人物でないと知っていたからだ。
「入るが良い」
相手が分かりいつもの様子で綾人に入室を許可する八重。その声に感謝の言葉が返ってくるとほぼ同時に襖が開かれた。
襖の向こう側に居た綾人は膝を折って恭しく頭を下げており、彼に頭を上げるよう声をかけるのは八重ではなく影だった。
「面を上げなさい、神里家の者」
「恐れ入ます、将軍様」
今一度頭を床に近づけた後顔を上げる綾人。彼はまず影にそして八重に視線を向けた後、鍾離とウェンティに「ご無礼をお許しください」と一礼した。
「構いません。急ぎの用件があるとのことですが、なんですか?」
綾人に近くに来るよう手招きする影は、聡明でいて武勇に優れた男が『急を要する』と判断した事柄の説明を求めた。
鍾離はその言葉に自分達が聞いてもいい話かと確認をとる。稲妻の政に関わる話であれば、いくら将軍の客とはいえ他国の者が聞いていい話ではないだろうから。
話が終わるまでウェンティと共に部屋を離れると伝える鍾離。しかし、それを止めるのは影でも八重でもなく、綾人だった。