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「ねぇモラクス、見える?」
己の身長のせいかそれとも影と八重の立ち位置のせいか、どうしても確認することができない。
焦れたウェンティは隣に座る恋人の上着を引っ張り、小声で尋ねた。長身な君なら見える? と。
すると鍾離は視線をこちらに向けてきたのだが、その表情はなんとも形容し辛いものだった。居た堪れないような、申し訳なさそうな、そんな表情だ。
恋人が見せる表情の意味が分からないウェンティは小首を傾げ、もう一度彼の真名を口にした。
すると鍾離はこれまた難しい顔をして、「すまない」と謝ってきた。
「? え? 何? なんで君が謝るの?」
まったくもって理解できないウェンティの頭には大量のクエスチョンマークが発生している事だろう。
目を瞬かせて鍾離を見つめるウェンティ。鍾離はその無垢な眼差しから逃げるように視線を逸らせてしまった。
「えぇ……。ねぇ、本当になにが―――」
「あはははは! だめじゃ! もう堪えきれん!!」
こっちを見ろと恋人の上着を引っ張ろうとしたその時、ウェンティの声に八重の笑い声が重なった。
驚き彼女の方を見れば、腹を抱えて笑っている八重の姿が。そして、ウェンティと同じぐらい困惑している綾人の姿も目に入った。
そりゃそうなるよね……。と置いてけぼりを喰らったのは自分だけじゃないとウェンティが安堵しそうになった時、八重が身を捩り笑い転げているおかげで漸く綾人が手にしていた『根拠』を確認できた。
次の瞬間、ウェンティの顔から血の気が引いた。何故ならそれは、2日前、自身が身に着けていたズボンだったからだ。
フラッシュバックするのは、当時の記憶。恋人と愛し合うことしか考えられず獣さながらに野外で求め合った。やがて近づく人の気配に恋人の機転で洞天に隠れたわけだが、その際、脱がされたズボンは己の手に無くその場に置き去りにしてしまった。
散々愛し合った後、漸く稲妻の地に戻り忘れた衣類を探していたのが影と再会する直前の事。
きっと風に飛ばされたのだろうと楽観的に考えていた自分を殴りたいと思ったウェンティの顔は、青から赤に変化していた。
「あ、あの、宮司様……?」
「すまんすまん、じゃが、これは、これは実に、愉快すぎるじゃろ」
困惑する綾人の声に何とか平静を取り戻そうとする八重だったが、どうにも込み上げる笑いを耐えることができないようだ。
綾人は稲妻に何かが起こっているやもしれぬ時に何故こうも大笑いされているのだろうと縋る想いで他に視線を向けた。将軍様は頭を抱え、奥の客人の一人も将軍様と同じように頭を抱えている。そして、その隣にいるもう一人の客人はそれはそれは見事なまでに赤く染まった顔でこちらを凝視していた。
最初こそ理解できなかった綾人。だが、思い出す。今目の前で顔を真っ赤にしている少年は確かモンド人ではなかっただろうか? そして、以前彼と会った際に彼が身に着けていた服装はどうだっただろうか? と。
己への問いかけに正しい答えが導き出せたのだろう。
綾人は驚きの表情から苦笑いに表情を変え、「どうやら、私の勘違いだったようですね……」と八重と影に視線を戻した。
「すみません、神里家の。私の客人が迷惑をかけました」
「もったいないお言葉を。何事も起こっていないのであれば私はそれで」
「いいえ、これは大きな問題です。まさか私の旧友が野外で衣類を脱ぐ趣味があるとは思いもしませんでしたから」
鍾離とウェンティを振り返る影の表情は無に等しく、言い知れぬ怒りと殺意を感じてしまう。
ウェンティは赤い顔から再び青い顔に表情を変化させ鍾離の上着を掴んで恋人を盾にするようにその背に隠れ、鍾離は「面目ない」と己の非を素直に認め頭を下げていた。
「良い良い。実に愉快じゃ」
「宮司様……」
「綾人、お主も気を付けることじゃ。欲に溺れると野生に還ってしまうということじゃからな」
「そうですね……」
ケラケラ笑う八重の言葉に綾とは頬を引きつらせながらもなんとか笑いを返し、人騒がせな客人が雷神の名に相応しい雷を落とす将軍に縮こまっている姿に脱力するのだった。