TREMOLO [ANNEX]

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風神が嫉妬する話



 どのくらい時が経っただろう。空高く上っていた陽は既にその姿を隠そうとしているのか空がほんのりと色付き始めている。鍾離は恋人を腕に抱いたまま窓から吹き込む潮風に異国の風情を堪能していた。
 おそらく今日はこのまま夜を迎えるだろうと思っていた鍾離の耳に届くのは、小さな唸り声。視線を落とせば、ぼんやりとした表情でこちらを見上げ瞬きを繰り返しているウェンティと目が合った。
「気分はどうだ?」
「いいよ。なんだかあたま、ぼーっとしてるけど……」
 いつもの饒舌は形を潜めおぼつかない呂律で応えるウェンティはぽてっと頭を恋人の肩に預け、「なにみてたの……?」と自分が目覚める直前の鍾離の動向を気にしている。その甘える様な仕草に、鍾離は恋人の頬に触れ、その髪に口付けを落とす。
「久方ぶりの景色を堪能していた。雲が少ないからいい月夜になりそうだぞ」
「そっか……」
「きっと月明かりに照らされた夜櫻を肴に呑む酒は美味いだろうな」
「よ、ざくら……? …………! 夜櫻っ!? こ、此処、稲妻!?」
 もう少し意識がはっきりしたら食事に行こうと誘うつもりが、突如覚醒したウェンティによって言葉を遮られた。
 肩に預けられていた頭を勢いよく上げたウェンティは先程まで鍾離が眺めていた窓の外の風景へと目をやり、青褪める。どうかしたのかと尋ねれば、何故か泣きそうな表情を見せるウェンティ。まだ気分が悪いのかと心配する鍾離だが、続く「ごめんっ……」という謝罪の言葉に暗い表情の理由が理解できた。
「何故謝る。お前の体調が回復したのなら、俺はそれでいいぞ」
「身体は、大丈夫。気分もなんともない。……ただちょっと、落ち込んでる、けど……」
「落ち込むよりも礼を言ってくれ。まぁ、俺としては役得でしかなかったから礼も必要ないんだが」
「うぅ……。モラクス、ありがとう……」
 くすくすと笑う鍾離の言葉に再び口から零れそうになる謝罪の言葉。それを何とか堪えて感謝を伝えれば、どういたしましてと目尻を下げて微笑まれた。
 寝起きにこの笑顔は心臓に悪いとばかりに早くなる鼓動。ウェンティは堪らず恋人の首に腕を回し、しがみつく様に抱きついた。
「……明日はモラクスが行きたいところ、行こうね」
「俺の『行きたいところ』、か。難しいな」
「自分のことなんだから別に難しくないでしょ? 例えばほら、櫻を近くで見たいから鳴神大社に行きたい! とかさ」
「そうだな。それもよさそうだ」
 よしよしとあやす様に頭を撫でてくる鍾離の言葉に意欲は感じられない。どちらかと言えば、ウェンティが言ったからそれに合わせて同意した、という感じだ。当然それは本人にも伝わっており、「そうじゃなくて!」と抱き着いていた身体を放して思わず恋人を睨んでしまうウェンティ。
「記念すべき稲妻旅行1日目がボクのせいで潰れちゃったんだから遠慮しないでよ!」
「遠慮なんてしていない。俺はお前がいればそれでいいからな」
「怒るよ!?」
「もう怒ってると思うが?」
 伸びてくる手は愛し気に頬に触れてくる。添えられる甘い言葉は睦言のようで、頬を包み込むぬくもりに別の意図を感じてしまって罪悪感を覚えた。鍾離はただ純粋に『愛しい』と想い触れているだけなのに、情事に誘われているように感じてしまう自分の思考が爛れているようで恥ずかしかった。
 羞恥に思わず喧嘩腰になってしまうも、その虚勢すらも包み込まれてしまって恋人の包容力には完敗だ。
「……モラクス、ごめん、重いよね? 降りるから、放して」
 居た堪れなくて逃げることを選んだウェンティ。だが、『お願い』をしたにもかかわらず鍾離の腕は腰を抱いたままで放してくれそうな気配は皆無だ。
(うぅ……なんで今日のボクの頭の中はエッチなことでいっぱいなわけ……?)
 ただの抱擁を、何故『求められている』と感じてしまうのか。
 脳内ではベッドに押し倒されて体中を暴かれる様を思い描いてしまっている。
 これまで幾度となく触れられ、抱擁を交わしてきた。しかし、これほどまでにこのまま愛されることを切望したのは初めてだった。



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2023-09-07 公開



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