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「モラクス、あの、聞こえてる?」
散々心配と迷惑をかけておいて旅行中に恋人を放置して眠りこけていたくせに、体調が回復した途端煩悩に塗れた思考全開だなんて絶対に気付かれたくない。しかし、恋人は聡明で他者の感情の機微を察する力にも長けているため、こんな近くに居てはバレるのは時間の問題だ。だから、何としてもこの腕の中から離れなくては。
内心焦るウェンティは空笑いを浮かべて鍾離に尋ねる。もう元気になったから大丈夫だよ。と未だ自分を心配しているだろう恋人を安心させる言葉を続けて。
しかし、腰に添えられた手は一向に離れる気配がない。様子を窺うように鍾離へと視線を向ければ、笑みを浮かべる男と目が合った。
(あ……、これ、もうバレてる感じだ……)
いつもと変わらぬ優しい笑み。でも、優しいだけじゃなく色香を含んだ妖艶さがあるそれに、ウェンティは自分が無駄な抵抗をしていたことに気付かされた。
返事をされたわけではない。問いかけられたわけでもない。それなのに言葉に詰まるウェンティは、鍾離の視線から逃れるように顔を背けた。
耳に届くのは楽し気な笑い声。
「なんだ。『礼』を貰えるのかと思ったが、違ったか?」
「『お礼』はさっき伝えたでしょ……」
「ああ。だがそれとは別の『礼』を貰えそうだと期待したんだが、どうやら当てが外れたらしい」
愉快だと言わんばかりの朗らかな声に、揶揄っているなら怒ると伝えるウェンティ。すると背けていた顔を己に向けるよう顎に手を添えられ、強引に視線を戻されてしまった。
「揶揄っているわけじゃない。ただ、俺も同じことを考えていただけだ」
「それなら、どうしてボクに言わせようとするわけ?」
「言っただろ? 『礼』だと。……苦しんでいるお前を前に何もできずただ傍で見ていることしかできなかった俺への労いかと思っただけだ」
俺が歯痒さと無力さに心を痛めていたことは知っているだろう?
そう笑う鍾離は、自分を気遣って自分が喜ぶ言葉がもらえると思ったと言う。
ウェンティはその言葉に唇を尖らせ不満を露わにした。
「そんな理由でボクが今君を求めてると思ってるの? そんな見返りみたいな理由で君に抱かれたいと思ってるって?」
もしそう思っているのなら、酷い誤解だ。体調を崩した自分を何日も労わってくれたことには感謝している。それは心から本心だ。だが、感謝を示す為に恋人を『喜ばせる言葉』を口にしたことなど一度もない。いつだって鍾離に伝えた言葉は全て自身の『想い』そのものだったのだから。
不機嫌になったウェンティだが、
鍾離の表情に焦りはない。むしろ先程よりもずっと愛しみに満ちた笑みを浮かべていて、拗ねる恋人の唇をなぞるように親指を添えてきた。
「すまない。お前が素直になるには『言い訳』が必要かと思ったんだが要らぬ気遣いだったようだ」
「本当に余計なお世話だよ」
「ならば聞かせて欲しい。お前が『何を』望んでいるか」
「だからどうして分かってるのに言わせようとするのっ」
恥ずかしがらせたいだけでしょ!?
そう言って鍾離を睨めば、「違う」と否定された。それならどういう理由で言葉にすることを強要するのかとウェンティが突っかかるのは当然だ。
「『恋人に求められたい』と思うことはそんなにお前を怒らせることか?」
「! そ、それは……、それは、そんなこと、ない、けど……」
「だろう? ……俺がお前を抱きたいと思っていることは既に伝えている。だからもしお前が同じ気持ちだと言うのなら、羞恥に耐えてどうか教えて欲しい」
まるで許しを乞うように囁かれる言葉は甘い声で紡がれる。ウェンティは表情を歪め恋人の熱の籠った視線から逃れるように俯いた。
どうやら今はまだ羞恥が勝っているようだと笑みを苦笑に変える鍾離。病み上がりの恋人を追い詰めることは本意でない為、『言葉』はまた今度、機会があれば。と、今『言葉』を貰うことは諦めようと思った彼の耳に届いたのは小さくも可愛い可愛い『想い』だった。
――― ボクもモラクスとエッチしたい……。
俯いたままのウェンティ。だがその耳は真っ赤に染まっていて、鍾離の胸を熱くしたのは言うまでもないだろう。