TREMOLO [ANNEX]

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風神が嫉妬する話



 旅先で羽目を外すことはよくあることだ。
 鍾離は対面で不機嫌な面持ちのまま黙って朝食を頬張るウェンティに視線を向け、「まだ怒っているのか?」と何処か遠慮がちな声をかけた。
 声はきちんと聞こえたのだろう。食事をとるウェンティの動きが一瞬止まった。だが、すぐに食事を再開する彼からの返答はなく、鍾離に視線すら寄こさなかった。どうやらかなりご立腹のようだ。
 鍾離はやれやれと息を吐き肩を落とすと箸を置き、「頼むから無視は止めてくれ」と恋人を真っ直ぐ見据えた。
「お前に無体を強いたことは本当に反省している。許してもらえるのならば何でもする。だから、頼むから会話をしてくれないか?」
「…………ボクがどうして怒ってるか、ちゃんと理解してるの?」
「浮かれ過ぎて本当に嫌がっているお前の声を無視してしまった。本当に悪かった」
 手にしていた箸と茶碗を置いて睨んでくるウェンティに、鍾離は真剣な面持ちで恋人が『怒っている理由』を口にし、「久しぶりで自制が利かなかった。すまなかった」と頭を下げた。
「『自制できなかった』ってレベルじゃなかったからね? ボク達が稲妻に着いたの、3日前だからね?」
「ああ、そうだな」
「流石に丸2日エッチするとか思わなかったんだけど」
「悪かった。俺もまさか此処まで止まれないとは思わなかったんだ」
 理性的でなかったとしても己の行動はすべて覚えていると言う鍾離は、ただただ許しを乞い、謝り続ける。
 船上で日に日に弱ってゆく番を前に何もできなかった歯がゆさの反動か、愛しい存在を愛で倒したいという欲をどうしても止めることができなかった。
 最初こそ齎される快楽に甘い声を奏でていたウェンティだが、後の方はその唇から零れる声は殆ど悲鳴に近かった。『もう無理だ』と『休ませて』と涙ながらに乞われた回数は両手では足りず、声を無視して愛を注ぎ続けた鍾離は今思えばあれは『愛』ではなく『暴力』だと理解している。だからこそ全面的に己の非を認め、ウェンティが許してくれるまで頭を下げ続けるのだ。
 神妙な面持ちで頭を下げる鍾離にウェンティは本当に反省しているのかと問いただす。返ってくるのは、肯定の言葉と次からはきちんと自制するという決意だった。
(『旅行中は我慢する』とかじゃないから、ズルいよね)
 真面目な表情で自分を見据える恋人は契約を重んじる。交わした『約束』を破ることも殆どない彼は、守れない約束はしないだろうし、大口を叩くこともまたそうだ。そんな男ができる最大限の『我慢』が『恋人の声を聞いて自制する』とくれば、笑え来るのは仕方ない。あまりにも愛おしくて。
(『旅行中はエッチを我慢する』なんてできないぐらいボクのことが好きとか、モラクスってば可愛すぎるでしょ)
 愛されている自覚は大いにある。でも、自分の方がずっとずっと大好きだと思っているウェンティは、良い気分だと口角を緩めた。
「稲妻の滞在予定を延ばしてくれるなら、許してあげる」
「! 分かった。お前が望むだけ稲妻を見て回ろう」
「本当に良いの? 胡桃、怒らない?」
「問題ない。お前の機嫌が直るのなら、堂主の怒りを買うぐらいなんでもないことだ」
 冗談めかしに尋ねれば、安堵したように笑う恋人。優先されたことに満足したウェンティは「冗談だよ」と意地悪な言葉を撤回し、滞在日数は予定通りで十分だと笑った。
「その代わり、今日は一日ボクの言う事聞いてよね! 誰かさんのせいで歩くことも儘ならないんだから!」
「その命は謹んで受け入れよう。今日はお前の眷属となり尽くすことを約束する」
「絶対だよ? 吞み過ぎても文句言わないでよ?」
「分かっている。……だが、許されるのであれば俺がお前と過ごす時間を大切にしたいと思っている事だけは理解しておいて欲しい」
 記憶をなくすほどの酒量は控えて欲しいと苦笑を漏らす鍾離の言葉は甘い。甘すぎて、思わず頬が赤くなってしまうほどだ。
 ウェンティは「卑怯だ」と悪態を吐く。だが、気が向いたら覚えておくと言いながらも旅行中はお酒は程々にしようと思ってしまうのだから惚れた弱みということだろう。



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2023-09-11 公開



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