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よほど無理なことを言われない限りは我儘を全て叶えてやろうと思っていた鍾離だが、ウェンティからもらった言葉は『鳴神大社に行きたい』という我侭とは呼べない要望だけで肩透かしを喰らった。他はないのか? と思わず尋ね返してしまったほどなんて事のない『願い』にウェンティから返ってきたのは頷きだけで、正直、一抹の不安を覚えた。
言葉では伝えていないが、鍾離はウェンティの我侭が愛おしいと思っている。口では文句を紡ぎながらも、恋人から甘えられていると分かっているからだ。
しかし、今回明らかに自分に非があるにもかかわらず『我侭』を言われないなんて、愛想を尽かされたのかと勘ぐってしまっても致し方ない。目的地への道中、歩行が困難な恋人を抱き上げ風景や街並みを楽しむウェンティの声に生返事を返すほど、鍾離の頭には疑心と不安が渦巻いていた。
「櫻って本当に綺麗だよね」
「ああ、そうだな」
「ほら見て、花弁がハートの形してる」
「ああ、そうだな」
空に翳した掌に舞い落ちてきた櫻の花弁を嬉しそうに鍾離に見せるウェンティ。だが、心此処に非ずな恋人は視線を向けることなく同じ返答を繰り返す。
先程から彼の異変を感じていたウェンティは、「ちょっと!」とその頬を両手で叩く様に挟み込んだ。パチンと小気味好い音が響き、黙々と足を進めていた鍾離は立ち止まって視線を向けてきた。
目を瞬かせ、「どうかしたのか?」と尋ねてくる男の表情に見えるのは、確かな不安だった。
「それはボクの台詞。難しい顔して考えこんじゃって、一体どうしたのさ?」
「別に考え込んでなど―――」
「ボクとの会話は退屈?」
「! そんなわけないだろう?」
「なら、上の空だった理由を教えてよ。一人ではしゃいじゃってボクがバカみたいじゃないか」
頬を膨らませて不満を露わにするウェンティ。
鍾離は戸惑いを見せるも、観念したのか言い辛そうに口を開いた。
「いや……、お前がまったく我儘を言わないから、いい加減俺に愛想が尽きたのかと思ってな……」
「はぁ? 何それ? なんでそんなことになってるの??」
迷子の子供のような頼りない雰囲気を醸し出していたから何か心配事があるのだろうとは思っていたが、あまりにも想定外の『悩み』に思わず声が大きくなるウェンティ。その声は『呆れた』と言いたげで、今の今まではしゃいでしたのは本当に自分だけだったのかと怒りも滲んでいた。
「何? ボク、愛想尽かした相手とのデートにウキウキしてたわけ?」
「バルバトス……」
「頭にきた! バカにしてるにも程がある!」
否定の言葉が返ってこなかった事に怒りのボルテージは急上昇。ウェンティは「降ろして!」と恋人の腕の中で暴れ出す。
此処で降ろしてはダメだということは流石の鍾離も理解しているのだろう。悪かったと言いながら恋人を抱きしめ、馬鹿な考えだったと想いを疑ったことへの謝罪を繰り返した。
「本当にバカ過ぎるよ! そもそもボクが『愛想を尽かした』って、何その被害妄想。なんでそんな風に思ったのか理由を言って!」
「『鳴神大社に行きたい』とお前は言っただろう?」
「それは言ったけど……。え? それで?? ちょっと待って、本当に意味が分からないんだけど??」
難しい顔で紡がれた言葉にウェンティは大きく目を見開いた。何故『鳴神大社に行きたい』と言っただけで愛想を尽かしたことになるのかまったく理解できない。恋人がその知識と経験から物事を小難しく考える節があることは知っていたが、これはそういうレベルの話ではない気がする。
ウェンティは眉を顰めながらも、鳴神大社に行くと言ったことが不味かったのだろうと解釈し、鍾離の立場になって考えてみる。
鳴神大社に行きたいと言った恋人。美しく咲き誇る櫻の大樹を間近で見たいらしい恋人のため、自分は恋人を抱き山の頂へと向かっている。
道中には大樹程ではないにしろ櫻の木々が咲き誇り、幻想的な風景を見せている。恋人はそれを喜びはしゃいでいるのだが、大社への道を進むにつれ気持ちは重く落ち込んでいった。
さぁ、それは何故だろうか?
(…………ダメだ。全然分かんない!)
そもそも分かるわけがないのに時間の無駄もいい所だと自分に呆れるウェンティ。考えても分からないことは本人に聞くのが一番だろう。