「俺も混ぜてくれよ、お二人さん」
「ガイア隊長」
わざわざ酒場の隅のテーブルを選んだのは偶々だろうか。ガイアは可愛い顔をしてしたたかな奴だと後輩の大胆さに少々驚いた。
しかしそれをおくびにも出さずいつも通り、近くの空いた椅子を手に二人席に強引に割って入った。
背後に突き刺さっている視線は、おそらく義兄のものだろう。彼はよほどへそを曲げている風神様の恋人様が怖いようだ。
(まぁ、分かるけどな……)
相手が普通の人間であれば、何も恐れることは無い。人であれば、ディルックに敵う者の方が少ないだろう。
しかし今ガイアの目の前で酔っぱらってくだを巻いているウェンティの恋人は、かつて隣国を統治していた岩王帝君と呼ばれた岩神モラクス。ウェンティと同じく七神の一人であり、最古の魔神だと言われている人物だ。
どれ程腕が立とうと、ただの人が神に勝てるわけがない。一度件の人物の気迫を目の当たりにしたことがあったが、いかなる理由があろうと喧嘩を売るべきではないと本能が逃避を呼び掛けたぐらいだ。
ガイアは愚痴を言うウェンティに適当な相槌を返しながら、大切な後輩が神の怒りを買わぬよう巧く立ち回る算段を立てていた。
「ねぇ! ガイアってば! ボクのはなしきいてるの!?」
「聞いてる聞いてる。聞いてるから、まぁちょっとこれでも飲んで落ち着こうじゃないか」
「なにこれ!? みずじゃない!!」
既に呂律は怪しくなっているウェンティのことだ。酒と水の違いも分からないだろう。
そう高を括ってグラスを差し出したものの、口をつけることなく気付かれてしまった。
流石酒好き。気付かないわけがない。
ガイアは間違えたととぼけて代わりに水を飲み干すと、ミカに『お使い』を頼んだ。マスターから『とっておき』を貰ってきてくれ。と。
「とっておき、ですか? でも……」
「大丈夫大丈夫。これよりひどい酔い方をしてる所は今まで何度も見てるから」
「そうですか……。分かりました」
テーブルに上体を預けて「みんなボクのてきだぁ……」と泣いているウェンティを気に掛けるミカだが、上官の命令に逆らうわけにもいかず、大人しく席を立ってカウンターへと歩いてゆく。
ガイアはその後ろ姿を見送りながら、ぐでぐでになっている飲み仲間の頭を軽く叩いた。
「状況はなんとなく察したが、らしくないじゃないか。こんなところで腐ってないで絶縁状でも叩きつけてやればよかったのに」
「そんなことしたら、ほんとうにわかれなくちゃならないじゃないかぁ……」
「さっき散々別れるとか喚いてただろ」
「あんなの、うそにきまってるでしょ。モラクスとわかれるとか、ぜったいやだよ」
「他に相手がいるかもしれないのにか?」
「! そんなわけないでしょ!? モラクスがうわきとか、そんなの、そんなの……、そんなの、やだよぉ……」
しまった。誘導に失敗した。
泣きそうな顔をしてまたテーブルに突っ伏して泣き出したウェンティにガイアは質問を急ぎ過ぎたと溜め息を吐いた。
先程のディルックとのやりとりで、まだかろうじて理性は残って良そうだと思っていたが、そうでもなかったようだ。
さめざめと別れたくないと泣いているウェンティに、おそらくただの痴話喧嘩だと思っているガイアは、問題が片付いたら今西風騎士団が璃月七星と交渉中の外交問題に口添えを頼もうと考えながら風神様を宥める。