TREMOLO [ANNEX]

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酒は飲んでも飲まれるな

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「あの、ガイア隊長」
「! ああ、悪いな。例のとっておきはちゃんと出してもらえたか?」
「はい。ディルック様からは此方を受け取りましたが、合ってますか?」
 差し出されるのはモンドではほとんど見ることのない酒で、それはスネージナヤで好んで飲まれているアルコール度数の高い酒としても有名なものだった。
 何故これが『とっておきなのか』と言いたげなミカから酒を受け取ったガイアは、同じことをぐるぐる繰り返しているウェンティの前にその酒瓶を置いた。
「こうなりゃ解決策は一つだ。嫌なことは忘れて飲み明かそうぜ?」
「がいあぁぁ、やっぱりきみはやさしいモンドじんだぁぁ……」
「はいはい分かった分かった。ほら、景気付けにまずは一杯行こうじゃないか」
 みんな敵だけど君は味方だと抱き着いてくるウェンティ。
 背中に痛いぐらいの視線を感じながら酔っ払いを宥め、空になったグラスにとっておきの酒――『炎水』をついでやった。
「それじゃ、くそったれに乾杯!」
「じいさんのばか! うわきもの!」
 ガイアがグラスを掲げれば、ウェンティもそれに続く。口にした言葉の数々は随分不用意なものだったが、酔っ払いの戯言だと気にする者はいないだろう。
 勢いよくグラスを空にするウェンティ。彼はグラスを勢いよくテーブルに置くと、そのまま突っ伏す様に気を失った。
 グラスを片手にテーブルに突っ伏して眠るウェンティの姿に、一口も口をつけていないはずなのに既に空のグラスを少年の隣に置くガイア。やれやれ……。と肩を回す仕草は『疲れた』と言わんばかりだ。
「ガイア隊長、ウェンティさんはどうされたんですか?」
「限界突破、ってやつさ。これは『炎水』の中でも特に上等な品でな。グラス一杯でも名だたる酒豪を泥酔させてきた代物だ。まぁ、既に泥酔していた相手を潰すことなんてわけないってことだな」
「そんな! どうしてそんなことするんですか! ウェンティさんは恋人と上手くいって無くてモンドに戻ってきたのでしょう!?」
 ガイアの振る舞いを非難するように詰め寄ってくるミカ。彼は純粋にウェンティを心配しているのだろうが、彼の恋心を知る者からすれば、絶好の機会を得た捕食者にしか見えない。
 ガイアは後輩を宥めながら、「それは吟遊詩人様の勘違いって奴さ」と、ミカが感じている『好機』は訪れていないことを告げた。
「まぁ、喧嘩したのは事実だろうが、それもどうせただの痴話喧嘩だ。変に煽って相手の怒りを買うのは得策じゃないだろう?」
「それは、鍾離先生の事ですか? 確かに彼には底知れぬ何かを感じますが……」
 何度か顔を合わせたことがある相手を思い出しているだろうミカは、とても穏やかな方だと思っていましたが。と眉を顰めた。
「どんな理由があったかは知りませんが、ウェンティさんをこんな風になるまで傷つける方のもとに帰らせても良いと言うんですか?」
「良いも悪いも、これは俺達が口出しする問題じゃないだろ。他人の色恋沙汰に首を突っ込むと馬に蹴られちまうぞ?」
「ですがっ!」
「ミカ、悪いことは言わない。こいつのことは諦めて、次を探せ」
「! な! なに、何言ってるんですか!? 僕は別にっ!!」
 ガイアの言葉に顔を真っ赤に染め上げるミカ。きっと彼は自分の恋心がバレているとは思っていなかったのだろう。
 後輩の慌てふためく姿に苦笑を漏らすガイアは、「こいつはお前の手に負える相手じゃないぞ」と眠りこけるウェンティを指さした。
 吟遊詩人ウェンティは、風神バルバトス。そしてその恋人である璃月の往生堂の客卿鍾離は、岩神モラクス。どちらも人が敵う相手ではない。せいぜい遠くから信仰するぐらいがちょうどいい。
 ガイアの忠告に、ミカは黙り込む。上官からの『命令』であっても『分かりました』と従いたく無いのだろう。
 己の大切な心だ。他人に口出しされたくはないだろうと理解を示すも、ガイアはいずれこれが茶番だったと分かるからと葛藤する後輩の頭を撫でてやった。



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2023-10-26 公開



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